レインウォッチャー

ストレンジャー・ザン・パラダイスのレインウォッチャーのレビュー・感想・評価

4.0
「不思議だ、違う場所に来たのに同じに見える」

ここではないどこかへの憧れと諦めについて、ここまでぴったりあらわした一節があるだろうか。粗いモノクロで映された風景は、クリーブランドの雪もフロリダの海もどちらも茫漠としたまっ白い砂漠のようだ。主人公たちはその中でさまよいながら、結局はニューヨークの散らかった裏道から脱け出せていないようで、手持ち無沙汰にしている。どこにいても同じようにテレビを見て、あぶく銭に一喜一憂し、どこかにパラダイスがあるはずだと信じてる。
そんな袋小路の旅の中でエヴァがくりかえし聴くのは「i put a spell on you」。浮気な恋人に魔法をかけてどこにも行けなくしてやる、というこの不気味とコミカルが同居した奇形のブルースは、彼らの状況を皮肉に予言しているのかもしれない。

映像・構成も特徴的で、全編モノクロの、極端に起伏も少ない日常会話の長回しが切り貼りされたようにつなげられる。くすっとさせられるやり取りもたくさんあるけれど、閉塞的な狭い室内や車内が続くシーンも多い。それでもダルくならないのはどの場面もいちいち決定的に画角がかっこいいからだ。ごちゃごちゃしたような物や人の配置が他にありえないと思えるくらいキマっていると思う。それがどこか、どうでもよさそうな汚いアパートの一室でさえも劇場の舞台セットのように見えてくるのだ。その均衡の中で、演者たちは見た目の単調さを超えてリアルに輝きだす…まさにここにも確実に、魔法がかけられている。