レインウォッチャー

タイム・オブ・ザ・ウルフのレインウォッチャーのレビュー・感想・評価

タイム・オブ・ザ・ウルフ(2003年製作の映画)
3.0
ハネケ×ユペールpart2、何らかの原因で文明社会が崩壊した土地をさまよう家族。

この「何らか」は明示されない(どうやら放射線等の汚染物質によるものかと仄めかされる)のだけれど、常に灰色に沈んだ死相がべったり貼りついたトーン、夜の底知れない深さ暗さ…からディストピアの不安は十分伝わってくる。音楽も殆どない。

かつて、J・L・ゴダールが『アルファヴィル』(※1)で特殊なセットや特撮なしに未来都市の生活を描いてみせたことを思い出す。ここでも、アンヌ(I・ユペール)とその子供たちが辿る物語は、すっぴんであるぶん現実の延長として捉えられる…というか捉えられすぎな気もする。

難民が寄り集まり、来るかもわからない《列車》を待ち続ける駅舎のキャンプ。物々交換が主流となり、弱い者や異邦人は見捨てられるか虐げられる。どこからともなく、カルト的な思想が芽吹いたりもする。
ここで繰り広げられる光景は、戦争や災害の現場でこれまでも、そして現在も起こり続けていることだろう。顔の映らない低いアングルが散見され、湿度の高い不安感を煽っていく。

タイトルの『タイム・オブ・ザ・ウルフ』、似た題としてI・ベルイマンの『狼の時刻』(※2)という作品(すき)があった。こちらは闇が深まり本能が首をもたげる丑三つ時のような特定の時間帯=Hourを指していたけれど、今作はもっと広い、おそらく時代とか時期のTime。
劇中では、ある少年の口から、犬たちが次第に野犬化し、人間に嚙みつくようにすらなったと語られる。文明のタガが外れた人類もまた野生化し、かつての信頼すら裏切るようになって、《狼の時代》が始まるのか。あるいは既にいつでも、きっかけ次第でそう転ぶ素地はできているということなのかも。

基本的に「イヤなことばっかり淡々と起こる映画」であり、色々とストイックすぎて好みかと言われるとちょっと難しい…のだけれど、それでも最後には一抹の希望らしきものが託される。それは広がる闇の向こう、距離感もわからない一点に灯った明かりのようなものだ。「きっと明日はよくなる」、とお前はいつまで信じることができるか?と試されているような気がした。

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ところで、I・ユペールちゃん様は最近見た映画3本連続でゲロ吐いてるのですがこれは。
(『ピアニスト』、『愛・アマチュア』、コレ。どんな3連複?)

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※1:https://filmarks.com/movies/38326/reviews/155302157

※2:https://filmarks.com/movies/42482/reviews/151889322
ベルイマンといえば、今作の夜道でいきなり牛が燃やされてる光景からは『蛇の卵』も思い出したり。あれもいわば歴史に実在したディストピア。ディストピア、道端で動物殺しがち。