ろく

欲望の翼のろくのレビュー・感想・評価

欲望の翼(1990年製作の映画)
2.7
久々にこの映画を観て(実に30年ぶりだ)あまりの感覚の違いに吃驚した。当時はあれほどに共感できていた作品が今となっては全くの水泡となっている。ああ、あの頃はもう戻ってこないんだ、そう思い自分の過ぎて行った歳月を考えてしまった。

あの頃は。おそらく、まだバブルの残滓が残るころであり、浮かれながら(それは一方では何も信じず/信じられず)その刹那、刹那を唯生きていた。それこそ「足のない鳥」だったんだと思う。だから主人公のレスリーチャンには共感した。足のない鳥が地面に落ちるときは唯死ぬときだけなんだ。大事なのは内面でなく表層。その点でも信じるものもなくひたすらに気障なレスリーチャンに酔った。誰を悲しませてもいい。それは自分ではないから。

うん、嫌な奴だよ。でも麻疹のように若いころはその熱病に罹患していたんだ。だから憧れた。この映画が好きだった。二度も見に行ったのは僕にとっては珍しいこと。自分の生き方をトレースしていたのかもしれない。

でも僕は年を取った。大事なものもできたし、自分もそれほど大切に思わなくなった(自分の自意識なんてどうせ大したものでないと思うような年なんだよ)。そうなったときこの映画を観た僕は。そこにあるのは飴細工の世界だった。過去に好きだった世界は張りぼてだと感じ苦笑した。

今の僕は恰好悪いと思う。服もそれほど頓着しなくなったし、腹もでてきた。髪にも白いものが混じるようになった(ありがたいことにまだ抜けるまでは至ってない)。でも少しばかり正直になった。そしてこの映画を「今は面白くない」と言えるようにもなった。

それはそれでいいことかもしれないと思っている。
ろく

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