ストレンジラヴ

コッホ先生と僕らの革命のストレンジラヴのレビュー・感想・評価

コッホ先生と僕らの革命(2011年製作の映画)
4.2
「諸君、想像してみたまえ。帝国内の各都市がチームを結成して対抗する。イングランドでは毎週末各都市のチームが対戦している。ドイツで同じことができるようになるかは、君たち次第だ」

1874年、第二帝政下のドイツ・ブラウンシュヴァイク。普仏戦争で対仏戦に勝利し、帝国が急速に発展しつつある中で、世間では資本家と労働者階級の隔たりが依然として強く、次なる仮想敵国と目される英国への反英感情が高まっていた。英国留学から帰国し、ギムナジウムの英語教師として赴任したコンラート・コッホ(演:ダニエル・ブリュール)は、英国から持ち帰ったサッカーボールを教室に持ち込み、生徒たちに「フットボール」なる競技を伝えていく。
ドイツにおけるフットボールの普及に貢献し、「ドイツサッカーの父」と称される実在の人物コンラート・コッホの実話を基にした物語。実際のコッホは哲学の先生であり、ナショナリズムも旺盛で、どちらかというとラグビーフットボールの方に熱心だったらしい。本作はかなり脚色されているが、それでも体育教育の一環としてフットボール、そしてそこから派生したハンドボールの普及に貢献したことは事実として残されている。つまりこの人物がいなければ、後々ベッケンバウアーもマテウスも、フィリップ・ラームも世に出てきたか分からないといえる。さらに私事ではあるが、ドイツ・ブンデスリーガの某クラブの有料会員であるくらいには入れあげており、その点では僕の人生を多少なりとも狂わせた人物なのである。
さて、テーマによるところもあるが、本作はドイツ版「いまを生きる」のような仕上がりになっている。「グッバイ、レーニン!」で好演したダニエル・ブリュールが、持ち前のキラキラした瞳でこちらでも素晴らしい演技を見せている。だが殊勲賞は学級の子供たち。特に労働者階級出身のボーンシュテットがボールひとつで自分の人生を切り拓いていく姿に目頭が熱くなる。この手の作品は少し冷めた感じで観ていたが、久々に純粋な感動をおぼえた。
母国イングランドをして「フットボールはシンプルだ。11人と11人がひとつのボールを追いかけ、最後にはドイツが勝つ」とまで言わしめたフースバルはこのところ元気がない。今年の欧州選手権はドイツ開催。"強いドイツ"の復活を願うばかりである。