四男の誕生をきっかけに手に入れたカメラ。まだ村では珍しかったカメラを持つイマードは、村のいろいろな催しに駆り出され、村のことを記録していく。舞台はパレスチナ自治区、ヨルダン川西側地区のビリン村。
そんな折に始まったイスラエルの分離壁の施工。村の中を遮るようにして建つことになるその壁の建築に、当然ながら村人たちは抵抗する。四男の成長を撮るためだったそのカメラは、期せずしてビリン村の抵抗運動の歴史を刻むことになっていく。
次第に激しさを増す抵抗運動の中で、何度も壊され、5台に渡って代替りを繰り返しながら。
1人の村人の目線から届けられた映像は、ただ理不尽な暴力に耐え忍ぶ姿のように映った。村人たちが何を訴えようと、入植行為を繰り返す建設会社、壁建設の命令に従う兵士たちにとっておよそ響くことはない。丸腰で投石を続ける住民たちに、武装した兵士たちは催涙弾を何発も投げ込み、銃器を投入して蹴散していく。そうして抵抗を続ける姿は、暴風雨に耐える防風林のようだ。いまにも折れそうになりながら、また、大切な仲間を奪われながらも、それでも折れまいと必死にふんばる姿。大きな力に飲み込まれまいと声を上げる人々の姿。
撮影を続けることでその身に危険が及ぶことも増え、家族からも止めることを望まれるイマード。それでも記録することを選ぶ。
「癒しは被害者の唯一の義務だ
何度でも傷を癒して抑圧に抵抗する
しかし忘れ去られた傷は癒えない
だから私は撮影を続ける」
国同士、民族同士の対立の中にいやが応にも身を投じさせられていく人々が世界中にいる。全てを知ることはできなくとも、せめて届けられたものは忘れずにいたいと、映像を言葉を噛み締めた。