きえ

エル・クランのきえのレビュー・感想・評価

エル・クラン(2015年製作の映画)
3.7
独裁政権が崩壊し民主化の道を歩き始めた1980年代のアルゼンチンで起きた驚愕の事件を描いた世にも恐ろしい家族物語であり実話。

家業にも色々あるけど何がどうなったらこうなるのか?
それまでの独裁政権は人の思考を気付かぬうちに歪ませてしまうのだろうか…

政府の要職についていた父親が失ってしまったのは仕事だけでなく罪悪と言う概念かもしれない。築いたモノが簡単に失われる事への不満や恨みが他者から奪うと言う事を正当化したのだろうか。

この物語が怖いのは単に犯した犯罪の恐ろしさだけでなく、家父長制における”父親”の存在がある種無言の圧力を秘めた独裁者であった事。
家族への自己的な歪んだ愛情は”愛してる”と言う名の元、ジワジワと家族の心を縛り付ける。犯罪を犯すまではいかないまでも、家族内の絶対的誰かによって歪まされていく事はあるとは思う。しかし…

こう言う場合、反抗や反発と言う形で家族と言う縛りから抜け出す事も出来たと思えるけど、親に背く事さえ悪だと育てられたら、長男のように真っ当な良心を持ちながらも不幸な道から逃れられないんだろうな。

加担、黙認… それは全て自己防衛だった気がする。父親の罪の重さは子供達の心と未来を壊してしまった事だな。

こんな重苦しい感想を書くと、重苦しい映画だと思われそうだけど、アルゼンチン映画は違う。昨年公開になった『人生スイッチ』の世界観にも通じるけど、残虐性も笑いに変えてしまうようなブラック性に富んでる。

その最たる物が音楽使い。
やってる事とは裏腹なポップで明るい音楽が全編通して流れる。エンドロールを彩る曲目の多さにびっくりする事間違いなし。そんな影響もあって実話でありながらどこか作り話のようなそんな作品に仕上がってた。

そしてそしてエンドロールで家族のその後を知る。そんな能力あるならそもそもこんな事しなくて良かったじゃんお父さん‼︎‼︎

である。。。。
きえ

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