まゆ

千年女優のまゆのネタバレレビュー・内容・結末

千年女優(2001年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

概要▽
女優として大成した千代子が、芸能界引退後に彼女の人生を語る様子をドキュメンタリーとして撮影するというストーリー。
彼女は戦前の日本に生誕し、少女時代のある日「彼」に出会い、そこから人生がドラマティックに変わっていく様子を虚構と現実を往来しながら、アニメならではの演出で魅せてゆく。 

以下感想▽
千代子の人生にとって彼がとても大きな存在だったのは言わずもがななのだが、女優の仕事も同じくらい大事なものだった。その二つが彼女の人生を生き生きとさせて、人生に必要不可欠なものだったのだなというのが私の中で一番強く残った印象だ。 

千代子は彼に会うために女優になったと言っていたが実は彼より先に彼女の人生を特別なものにしたのはスカウトだったのではないかと思う。 
母親から芸能界入りを反対され言いなりになるしかなくクサクサしていたところで彼と出会うシーンでは
彼とのドラマティックな関係が、彼女が彼女自身の人生を改めて「やはり特別なのだ」と思わせてくれたように見える。 
母親によって平凡な人生に戻されかけたところに光を見つけたのだろう。 
もしかしたら、彼との出会いの前にスカウトされていなければ、彼女は特別か平凡かなんて価値観を持つことがなく彼に恋をしていない、もしくは執着していないのではないだろうか。

スカウトされた時から千代子は自分の人生をドラマティックなものに重ね始めていて思想犯との出会いにときめいたのかもしれない。 

そして、彼女は満州にいるかもしれない彼を追って母親の反対に負けず芸能界入りをする。 
この時の彼女のエネルギーは
彼に再び会いたい、というもの。
その後もずっと彼女は彼を追うエネルギーを持ち続け、それは本当の彼女の感情でもあり恋する女性の役を演じる時の感情でもあった。 
ここで、現実と虚構の感情が入り混じった演出が生きてくる。 
普通は複雑な演出をしてしまうとそれが分かりづらさに繋がりそうだけど、本作は逆に千代子のキャラクターへの理解を深めるために必要だったのだと感じる。

千代子の一途な演技に、周りの人間も、映画ファンたちも惹きつけられていき彼女の女優人生は成功していく。
彼女にとって、彼を追いかける気持ちは女優として成功するのに必要不可欠なものになっていったのだと感じる。 

芸能界を引退した時の心境を告白するシーンでは、年齢を重ねた自分の姿を彼に見てほしくないと思ったからだと言っていたが、彼がもうこの世にいないことをなんとなく悟ったことで女優としてもこれまでのようやっていく自信がなくなって来たことなどがあるのだろうと思う。 

純粋に彼に恋する気持ちと、そのエネルギーが自分を女優として好転させてくれるという両面がうまく表現されていてすごく面白かった。

だから、彼女が死に際で「だって私、あの人を追いかけてる私が好きなんだもの」
と言うのはすごく納得だった。 

好きな人と生きていく幸せは得られなかったけど、自分自身を好きにさせてくれる存在が心の中にずっとあると言うのもまた幸せなのだと思えた。 

秒速五センチメートルにもなんとなく似てる。 

エネルギー溢れる作品で元気が出る。 
まゆ

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