emi

縞模様のパジャマの少年のemiのネタバレレビュー・内容・結末

縞模様のパジャマの少年(2008年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

父の仕事の都合で引っ越しを余儀なくされた少年ブルーノ。新居は父の仕事仲間である軍人の出入りが多い屋敷で、傍には不思議な農場があった。ブルーノは母親の目を盗み農場探検に行き、縞模様のパジャマを着た少年シュムールと出会う。2人は鉄柵越しに友達になり…

ホロコーストを題材にした映画は数あれど、新しい切り口で描く寓話のような作品。無駄なシーンがないのが凄い。ブルーノの8歳という子供ならではの無邪気な残酷さと無鉄砲さ、12歳の姉の人が変わったように家庭教師の教えを盲信していく姿、どちらも妙にリアルだった。

ユダヤ人役パヴェルの演技も素晴らしく、ブルーノの母が少し躊躇いながらも「ありがとう」と呟くシーンはすごく印象的。彼女自身ユダヤ人とどう接してよいのかわからない、それ故に距離を置こう、関わらずにいようと必死だった…そんな心情が垣間見える良いシーン。

コトラー中尉はかっこいいけどクソ怖よ…

切り口は新しいけど"ありえない話"と思うことなかれ。
DVDのコメンタリーによれば調査結果に基づいて描いており、強制収容所所長の家族であっても機密扱いで詳細には語られず、"農場"が強制収容所であると認識していても、絶滅収容所であるということは所長の妻は実際知らなかったとのこと。
この作品はフィクションだけど強いメッセージ性があります。

母親は自分の夫が所長の任に着いていることには複雑な様子で、仕事であることは理解しているつもりでついてきたが、実際は収容所は近く、自宅に出入りするユダヤ人のパヴェルもいる。思っていたより身近であったことから戸惑いが隠せない。そのうえ忠誠を示すための数々の言動、行いが非人道的で徐々に自分の夫が無慈悲な怪物のように感じられてくる。先述したがユダヤ人と言うだけで差別をしていたパヴェルも、関わらない事もできたはずの彼が息子を助け手当をしてくれたことでついぞ無視できなくなり「ありがとう」と口にする。

ブルーノの姉は家庭教師の教えと、恐らく恋心を抱いているであろうコトラー中尉からの影響で着々とヒトラー崇拝者に変化、母親が驚くほど部屋の様子も様変わりし装いまでも別人のようになる。

私はここがとてもリアルに感じた。
想像でしかないけれど、全員が全員妄信的だったわけではなく、表に出すことができない疑念は多くの人が抱いていたんじゃないかって。日本も戦時中、将校の妻だからといって日本軍が何を行っているか詳細に知っているわけではなかっただろうし、本音を口にすることができなかっただけでこんなのはおかしいじゃないかと感じている人は大勢いたはず。

作品の話に戻るけれど、コトラー中尉と祖父と囲む食事のシーンはブルーノ達同様、息が詰まりそうだった。煙の正体を妻に伝えたコトラーを暗に責め続ける父、自身の父親の話を詰められて自分の命運を察しパヴェルをストレスの捌け口に暴行を働いたコトラーのシーンとか…そして一家団欒の食卓で扉一枚隔てた先でパヴェルのうめき声が聞こえるというのに、何食わぬ顔で食事を続ける父親。止めることもない父が知らない人のようで誰もが言葉を発する事もできない…あのなんとも言えない緊張感、描き方がとても上手かった。

パヴェルについて彼は本人の口から医者であったことが語られる。関わらない方が良いに決まっている所長の息子にかけより、怪我をした足に丁寧に包帯を巻く。
ブルーノは無邪気かつ生意気に色々と問いかけるが、本来言葉を交わすことすら彼に取ってはリスクが高い事。それでも彼はブルーノを治療した。それを分かっているから、距離を取らないと、彼はユダヤ人なのだからと心の中で言い聞かせるような表情のブルーノの母の口から「ありがとう」という言葉が漏れたときには、僅かな救いを感じて安堵してしまった。

ブルーノが保身のためシュムールがおやつを盗み食いしたと発言したシーンは絶望してしまったなぁ…。ブルーノはその僅かな嘘でシュムールがどのような目に遭うのか、恐らく分かっていない。傷ついた顔を見てからも「まだ友達でいてくれるか」と尋ねるのは、無邪気で、とても恐ろしいことだ。

シュムールがブルーノの為に縞模様のパジャマを用意してしまうシーンも、2人にとってはシュムールの父親を探すという目的の冒険…。ちょっとした探検のつもりでシュムールはブルーノを鉄柵の内側へと引き入れ、ブルーノもまたわくわくした気持ちで入っていってしまう。それは何故かというと、所長である父親が強制労働所はカフェや娯楽施設が充実したとても楽しい場所だと紹介している映像を鑑賞しているのを盗み見てしまったから。

勿論それは真実ではないけれど、あれを観たブルーノはもしかしたら父はとても恐ろしいことをしているのかなという不安が少し払拭されて、父は悪ものではないのだ、農場の人達は娯楽もある世界で働いているのだという不幸な思い違いをしてしまった。映写室から出てきた父に抱きついたブルーノは父を信じてしまった。

本当にこのあたりは寓話的というか、教訓めいていて、よくできている。ワンシーンいずれも意味のない描写がない。全てがエンディングに繋がっていく。ブルーノの父はあの後どのような人生を送ったのだろう…
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