ペイン

スリのペインのレビュー・感想・評価

スリ(2008年製作の映画)
4.7
ライムスター宇多丸の2010年映画ベスト10(※ラジオではなく)にて、パク・チャヌク『渇き』、ヴェルナー・ヘルツォーク『バッド・ルーテナント』といった傑作を抑え、見事第1位に選ばれたジョニー・トー監督作品。本国では2008年公開、日本では劇場未公開で2010年にDVDスルー。

劇場未公開DVDスルー映画大好きマンを公言している私としては、前々から観たくて仕方なかった注目作。声高に叫ぶことはなくとも、どこか心の奥底では“真のマスターピースは陽の目を浴びずに埋もれてしまう”と思っている節が私にはある(※必ずしもではないが)。

実際に僅かながら例を挙げると、あのミヒャエル・ハネケのデビュー作『セブンス・コンチネント』(私的ぶっちぎりハネケベスト!)や、エミネムも200回観たと公言するグレッグ・モットーラのアメリカ青春映画クラシック『スーパーバッド 童貞ウォーズ』、みんな大好きエドガー・ライトのデビュー作『ショーン・オブ・ザ・デッド』、S・クレイグ・ザラー監督作品等々、枚挙に暇がない。

そんなジョニー・トーの本作『スリ 文雀』は、都市の急速な発展を感じ、近い将来消え去るであろう“今の香港の街並み”を記録として残しておきたいという監督の想いから約4年かけてコツコツと撮られた作品で、小品ながら極めて私的で気持ちのこもった逸品。失われゆく街“そのもの”が主役といった感じで丁寧に撮られた作品という意味ではその延長戦上に今泉力哉監督の『街の上で』も置けるかもしれない。

本作はトーさんお得意の派手な銃撃戦描写はなくとも、少々情けなくも愛らしい男たちの友情とユーモアは満点で、Xavier Jamauxとフレッド・アヴリルによる軽妙洒脱な音楽や、ジャック・ドゥミ『シェルブールの雨傘』及びヌーヴェルヴァーグ作品やセルジオ・レオーネ作品にオマージュを捧げたキレキレの映像表現にも痺れっぱなしである。

『ザ・ミッション 非情の掟』に匹敵、あるいは超えているとすらも感じる傑作だ。好き度合いでいえばブレッソンの『スリ』をも超えている。
ペイン

ペイン