猫脳髄

ザ・シャウト/さまよえる幻響の猫脳髄のレビュー・感想・評価

3.3
初イエジ―・スコリモフスキ。文芸映画かアートフィルムかという格調を装ってはいるが、ホラー脳で解釈すると変わり種のサイコ・スリラーである。

精神科療養所のクロケット大会に参加したティム・カリーが、スコアラーの小屋でアラン・ベイツと遭遇する。患者とスタッフたちの試合のさなか、ベイツは、試合に出場するジョン・ハート夫妻との因縁と、自らがオーストラリアで先住民から体得したという不気味な「叫び」の魔術のことを語り始める、という筋書き。

ベイツはいわゆる「信頼できない語り手」なので、冒頭から療養所までのシークエンスを踏まえれば、おおむね与太話といってよい。ただ、クライマックスで観客にそれを疑わせるような仕掛けを施しており、ベイツの語りが真実性を帯びる瞬間が到来する。描写こそ特異だが、実はサイコ・スリラーとしては王道といってもいいかもしれない。

ベイツの語りに属するパートがまた異様で、ハートとスザンナ・ヨーク夫妻のもとに居座ることになったベイツが、魔術を駆使して家庭を乗っ取ろうと企むが、そこでのベイツの語り口のチグハグさがまことに不気味である。

突然静止画やモノクロショットを挟み込んでみたり、フランシス・ベーコン(「叫び」のヴィジュアルを多用する画家である)との照応(※)など脈絡がないが、これも狂人の妄言と解すれば少しは納得できる。ただ、上述したようにクライマックスでその虚妄性にひびが入ることで、ふたたび観客に不安感が送り返されることになるのだが。描写の異常さヘンテコさに戸惑うこと請け合いの珍品である。

※ベーコンの作品に則して、裸のヨークが急に四つん這いで動き回るモノクロショットが唐突すぎてあっけにとられる
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