垂直落下式サミング

カニング・キラー 殺戮の沼の垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

4.1
アフリカの社会風刺を織り混ぜたワニ映画。
アフリカの奥地で白人女性が無残にも謎の生物の餌食となった。この事件を取材するため、アメリカのテレビ局が取材班を伴ってジャングルの奥深くへと足を踏み入れるのだが、そこで現地人がグスタヴと呼ぶ獰猛な巨大ワニに遭遇してしまう。狡猾なヴスタヴの血に濡れた足跡がどこまでも彼等を追跡し、息つく間もない壮絶な殺戮が展開するのである。
物語の舞台となるブルンジ共和国はアフリカ内陸部に実在する国家だ。はじめは部族間の小さないざこざだったものが、国家転覆を目的とした内乱やクーデターにまで発展することすらある不安定な小国である。そういった背景からかワニの喰いっぷりより、事件に絡んでくる武装集団に汚職役人といった人間同士の殺し合いのほうが何倍も怖い。そういうシーンが満載であった。満を持して登場するワニのサイズ感も、人ひとりがバクンと丸呑みにされるほどの馬鹿デカさではない現実にいそうなちょうどいい大きさ。社会派・エンターテイメントの釣り合いがとれており、単にワニワニパニックな作品ではない。
現地人のジョジョがブルンジの内情を写していて、「アフリカで黒人が死んだって誰も気にしない」という悲しくも達観した言葉が作品に深みを出しているが、逆に女性レポーターはかなり嫌なやつとして設定されていて、野生動物専門のレポーターという触れ込みのわりに、アフリカの実情には詳しくないし記者として事前に情報収集もしていない。一応大手のマスコミ会社に属しているのにも関わらず身勝手な正義感を振りかざし、頑なに汚い事を認めようとしない様が愚かに描かれている。現地人が巨大ワニを恐れて生け贄として沖に犬を置いていたのだが、彼女が可哀相だと勝手に犬を回収してしまうエピソードが印象的。彼女の行為は現地人の習慣を無視し、自身の倫理観を押し付ける礼を欠いた行為である。我々が学ぶべきは、偏狭な正義感がこれほどまでに世界を悪い方向に導いてしまう現実だ。無関心より不理解こそが悪なのだと思い知らされる。
人間はここまで非道になれるのだという残忍さと、人の力ではどうにもできない怪物に追われる恐怖。別種の驚異をジャンル映画の枠のなかで並列させて描いてみせた挑戦的な作品だった。