shinodog

ミュンヘンのshinodogのネタバレレビュー・内容・結末

ミュンヘン(2005年製作の映画)
3.9

このレビューはネタバレを含みます

1972年に起きたミュンヘンオリンピック事件とその報復作戦をスティーブン・スピルバーグがサスペンスフルに描いた今作。
世界史にはとんと疎く、こんな事件があったことすら知らなかった恥知らずな私。
眠くなっちゃうんだろうなと思いながら鑑賞。
だがしかし、そこはさすが巨匠スピルバーグ。
この映画の同じ年に「宇宙戦争」を公開しているんだから驚き。
よくもまあこんなクオリティを維持できるなと。
某藤井道人、某福田雄一も彼を見習うべきかと。

・良いところ
何より私のような馬鹿でもわかるようなストーリー展開。
基本この手の映画は時代背景や政府など複雑で一体何が起きて何をしているんだと混乱しがちだけど、
非常にわかりやすいプロットと説明になっているのがありがたかった。
読解力がないもので申し訳ない…
もっと優秀な人たちの集まりなのかと思ったらちゃんと寄せ集め集団で、
爆弾製造担当の男に至っては実は解体しかしたことなかったというオチまでついている。
だからこそ、鑑賞側も最初は応援したくなるし、
感情移入しやすくなった。
暗殺が成功していくたびにちょっとずつみんなの心が病んでいく様がまたリアルでこっちまで気が滅入ってきてしまうほど(褒め言葉)
白眉は、最初に暗殺されてしまう、カール。
ハニートラップに引っかかり、無様な格好で殺されてしまうのだけれども、あの極限状態では行ってしまうよなと思わざるを得ない。
それまでの伏線をちゃんと貼っていたからこその説得力。
カールの死から端を発し、まさしく『報復の連鎖』で今回の一件では全く関係のないその女性に復讐することになる。
そこからまるで転がるようにみんな病んでいき、死んでいき、主人公のアヴナーも今まで自分たちが仕掛けてきた爆弾やトラップを思い出して仕掛けられてるんじゃないかと怯え出す。
これがまたリアルでこちらも本当に仕掛けられてるんじゃないかとドキドキしてしまう。
そして本当にこの戦いに終わりがあるのかという疑問が大きくなっていく。
最後に全ての黒幕の暗殺を企てるもあえなく失敗して、ここで彼らは手を引くことになる。
遺されたのは勲章や名誉もなくただただ精神を病んだ自分だけ。
やっと再開できた家族の幸せは仮初でしかなく、暗殺の恐怖に悩まされる毎日。
そこで高官に問う『自分がただ人殺しをしただけではなかったという証明が欲しい』はまさしく悲痛の救難信号。
ただそれすらも満足に証明されることなく、『報復の連鎖』が行き着くことになるワールトレードセンターをラストカットで締めくくる。

この映画自体非常に物議を醸した作品で、見方によってはテロすら擁護するような見方すらできる。
報復したイスラエル側を批判するような演出すらある。
ただこの映画の重要なところはそこではなくて、人が戦争によって病んでいく様を描いた作品。
あくまでアヴナーという人物を描いているということ。
だからこそ、私のような歴史に疎い人間でも観れたんだなと。

・悪いところ
ただ、
ただ一つだけ気になったのは、
あのミュンヘンオリンピック事件のフラッシュバックを挟みながらの奥さんとの絡みシーン。
所謂、PTSDS○X。
あの時の心情はどういったものだったのかそこだけ理解が追いつかなかった。
いや、むしろ主人公自身も追いついていなかったのかも?
パレスチナ側、イスラエル側どっちが悪いのか、自分はどっち側なのか混乱してしまっていたのかもしれない。
そこはスピルバーグ先生の宿題ということで

“普段温厚な先生が、3年生の期末試験で急に本気出してきたような難問な映画”だった。

10作目にして非常にレビューが難しい作品だった…
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