映画漬廃人伊波興一

ミュンヘンの映画漬廃人伊波興一のレビュー・感想・評価

ミュンヘン(2005年製作の映画)
3.6
大家の余裕より、こんな混迷に苦いシンパを覚えます。
スティーブン・スピルバーグ『ミュンヘン』

A級とB級、どちらが映画として面白いか、などという世迷い言に惑わされてはならぬ。
面白さにA級もB級もないからです。

ですが成功した作品と失敗した作品、どちらが面白いか、となれば間違いなく失敗した作品だと思う。
無理に面白くしなくとも成功する例はありますが、面白さを目指さなけれ失敗などあり得ないからです。

『ミュンヘン』は多作作家スピルバーグが撮りあげた数少ない失敗作品。
もちろん非礼の意味などではありません。

『ミュンヘン』という映画に窮屈感を禁じ得ないのは一番袋小路にて迷っているのが私たち観客ではなくスピルバーグご本人であるから。
それまで数多くの良心作を生み出してきた彼にしか分からぬ撮影中の苦悩がありありと浮かびます。
もしかして途中で放棄したくなる事さえあったのではないか。
映画を観ながらこんなほくそ笑む気持ちになったのは溝口健二の『楊貴妃』以来の事です。
思えば本作公開の2005年には『宇宙戦争』という面白過ぎる(!!)作品もありました。
一年でこの2本を発表するだけでも大家の混迷ぶりが窺えます。
失敗大家スピルバーグを(ナメるなよ)です。