深獣九

デビッド・クローネンバーグのシーバースの深獣九のレビュー・感想・評価

3.5
クローネンバーグ監督デビュー作。粗削りながらも、クロ監督特有の空気感はとても良い。ローションをぶちまけたヨギボーの上に立っているような、と言ったらわかりやすいだろうか。わかりにくいな。
小ぶりながらヌメヌメした独特の質感を持つクリーチャーも、監督を象徴するアイコン。数多の悪夢はここから始まった、と思えば価値あるものだ。

完璧に管理された高級マンション「スターライナー・タワー」を見学しようと訪れたカップルから、物語は始まる。幸せそうなふたりから切り替わると、中年三重苦を背負ったオジサンが少女(そう見えるがそうではないらしい)に暴力を振るう場面に。私は呆気にとられ、少女は命を取られ、破滅の物語は幕を開ける。
このシーンが衝撃的すぎてクロ監督に惚れ直す。

物語を簡単に言えば、謎の寄生虫が住人に次々と襲いかかり、平和なマンションが阿鼻叫喚の地獄と化すというもの。古い映画とはいえ斬新なアイデアではないかもしれないが、意識高い系が集まる閉鎖(物理&心理)空間での展開はさすが。クロ監督の心の内が透けて見える。「金持ちが……人を見下した目で見やがって。お前らなんか一皮剥けば欲望しかないじゃんか。めちゃくちゃにしてやんよ」と昏く静かな叫びが聴こえてくるではないか。
看護師の夢で老人が語る「(あいつらの頭の中は)すべてはセクシャル、すべてはエロティック」は、クローネンバーグ監督の本音であろう。

寄生虫は取り憑いた人間の欲望を解放する。性欲の権化と化した者たちは、老若男女問わず襲いかかる。かと思えば理性を取り戻したような行動に出る。まるで寄生虫に操られているかのようだ。実際、蝸牛を操るロイコクロリディウムや、蟷螂を入水自殺へ導くハリガネムシなど、モンスターのような寄生虫がいる。リアリティが増すというものだろう。

ゆったりした展開は、現代では敬遠されるかもしれないが、後半ブーストがかかってからはだいぶ気味悪いし映像は狂ってる。あらためて観る価値のある作品とし、デビッド・クローネンバーグを学ぶバイブルとしてこの円盤をお宝としたい。
深獣九

深獣九