小津作品としてはかなり異色だとは思う。
小津自身、… 及びこの後コンビを組む野田高梧、両氏共が心がけていたのは普遍的な、特定の時代性を感じさせないテーマだっただろう。
けれども、この作品は戦後 間もない時間設定の中で、作品全体を覆う空気もそれに呼応するかなり重苦しいものだ。
時代錯誤的… 、時折挟まれるこの時代特有の男尊女卑的な匂いを感じ取ってしまう人もいるかもしれない。
けれどもそこに見られる、一つの過ち(と、本人さえ思い苦しんでしまっている)によって、深く傷つきながらも許しあい、受け入れて二人の愛を育てていく様に、時代を超越したものをも大いに感じさせる。
まるで未熟すぎた日本という国が、かつては懸命に希望の光を探して、それを育てていこうとした時代があったのだと言うように。
また、小津監督が普遍的な愛というものを描くときに、この後 彼独自の世界観を完成させるわけだけれど、そこに至るまでにさまざまな試行錯誤を経ていたのだということも再確認できるという意味でも興味深い。
戦後の混迷を懸命に、逞しく生き抜こうとする母親役、田中絹代の演技に胸が締めつけられる。