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彼女と僕のいた場所(1995年製作の映画)
3.7
 卒業式おめでとうと書かれた垂れ幕の下、グローバー(ジョシュ・ハミルトン)が投げやりな様子でドアから出て来る。ゆっくりと右に移動しながら、やがて茂みの奥に姿が消えるグローバーの姿を見失うまいとカメラは長回しで追うのだ。大学卒業式の夜、ブルックリンの一等地では卒業パーティが盛大に行われていた。グローバーの彼女のジェーン(オリビア・ダボ)は卒業式に小説の賞を取り、ニューヨークからプラハへ留学が決まった。失意の主人公はジェーンに皮肉を投げ掛け、元カノを素直にお祝い出来ずにいた。3ヶ月後、相変わらずの貧乏生活を送るグローバーは、マックス(クリス・アイグマン)と共に、チェット(エリック・ストルツ)やスキッピー(ジェイソン・ワイルズ)、オーティス(カルロス・ジャコット)と合流し、相変わらずの馬鹿話に華を咲かせた。翌週、グローバーは文学志望の新入生のエイミーと出会い、成り行きで関係を持った。だが主人公の心の傷は一向に癒えない。

 今やアカデミー監督賞ノミネート作家となったノア・バームバックの長編デビュー作は、モラトリアムを引きずる主人公たち5人の青春群像劇に他ならない。大学なんて卒業してしまえば、それまで頻繁に会っていた親しい友人ともあまり会わなくなり、社会人としての繋がりが大きくなるが、グローバー達5人はニューヨークのマンハッタンという同じ環境で未だにダラダラとした青春時代の延長を生きる。うだつの上がらない卒業生たちは、大人の格好をして中身はまだまだ子供のままで、下宿に戻って来るように家に集うのだ。作家志望のグローバーの友人たちも、10年留年してバーを切り盛りする者もいれば、レンタル・ビデオ店で働き出した者もいる。突然社会に投げ出された5人の奮闘は身につまされる部分がありながらも、どこか可笑しい。終始ダラダラとした現代口語的な日常の会話劇はまさに「マンブルコア」映画の原点ともなる。また自分の才能を信じていたはずの主人公を易々とパートナーが先を越す皮肉は『イカとクジラ』のプロトタイプにも見える。男と女の関係が冷え切って行く様子を描くのはこの頃から抜群に上手かったし、決してドラマチックではない緩慢で弛緩した時間の中に人間の本質が垣間見えるバームバックの瑞々しい処女作である。
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