コミヤ

イングロリアス・バスターズのコミヤのレビュー・感想・評価

4.3
「達者でな、ショシャナ」

タランティーノ作品特有の駄話が英語、フランス語、イタリア語、ドイツ語など多言語で繰り広げられ、会話そのものがストーリーの進行に密接に関係している。宇多丸さんの言葉を借りれば、「言語を制する者が戦争を制する」話。アクセントの微妙な違和感などから生じるバレるかバレないかサスペンスが時にユーモラスに時に緊張感を持って描かれる。

その緊張感がマックスなのはチャプター1。ユダヤ人を匿うフランス人農家の大男を二か国語を用いてゆっくりと確実に追い詰めるハンス・ランダ大佐の魅力で早々に映画に釘付けになる。気品もあり多言語を操る才能の持ち主だが、さり気ない仕草や言動、表情で倫理観が欠如してしまっているようにも見えるという絶妙なキャラクター。後のケーキにタバコの吸い殻を突き刺すシーンからもこいつがクソ野郎だということが分かる。
しかしラストに彼が取った行動のアホさと尻すぼみ感は無理やり映画を終わらせに行っているようで残念。チャプター1での「ユダヤ人のように考える」という台詞があるように彼のドイツへの帰属意識というものがそこまで強いものでもないとも読み取れるのかもしれないけど。

その彼の行動など、後半になるにつれて、脚本のツッコミどころが目立ってくる。地下のバーでのバスターズの暗躍がランダにバレるきっかけやプレミア作戦でバスターズとショシャナの思惑が結局お互いを認知することなく進行するところなどは違和感を覚えた。
プレミア作戦に関しては映画の中くらいヒトラーの顔面を蜂の巣にしてもいいじゃないかということなのかもしれないけど。むしろ、両者がお互いを全く知らないはずなのにショシャナが起こした火災に乗じて、ナチス上層部に銃弾を撃ち込むバスターズの描写からは、とにかくナチスとかいう極悪人どもを映画の力で皆殺しにしたいというタランティーノの強い思いを感じた。その際のイーライ・ロスの鬼が宿ったような顔面の気迫が印象的。役者として本当に魅力的な風格のある人。またこのチャプターのイタリア人に扮したバスターズとランダとの初対面シーンが最高に笑えた。

引っかかるところも多いけどめっちゃ面白い作品。
コミヤ

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