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アングスト/不安の消費者のレビュー・感想・評価

アングスト/不安(1983年製作の映画)
4.3
初回鑑賞: 2022/08/12
初回スコア: 2.6

・ジャンル
実話ベース/サイコスリラー

・あらすじ
幼少期からKの人生は不遇だった
実父は酒に溺れ母からは愛されず、祖母の元に送られれば私生児として忌み嫌われる
母の元に戻ると養父からの虐待を受け妹にも見下され母はそれを見て嘲笑う
彼の感情は屈折しきった物となりやがてそれは動物の虐待や母の殺害未遂という形で発露されてしまう
以降、殺人や軽犯罪によって人生の半分以上を獄中で過ごしてきたK
そして老齢の女優を殺害した罪による10年の収監から解放された今でも彼の内に秘めたサディズムが収まる事は無かった
出所して早々に獄中で練った殺人計画の実行へと移るK
しかし最初の犯行は失敗に終わり、逃げた先で人気のない民家へと辿り着く
間も無く住人である母娘が帰宅した時、凶行は開始される
しかし行き当たりばったりの彼が妄想した通りに成し遂げられるはずもなく…

・感想
オーストリアに実在した殺人犯、ヴェルナー・クニーシェックによる事件を題材に製作されたスリラー作品
公開から間も無くヨーロッパ全土で放映禁止となった曰く付きの一作

劇映画ではあるが作風としてはモキュメンタリーやPOVに近しい部分もあり、主人公である殺人犯Kの視点に没入させる作りがとにかく特徴的
誇張を排除したおぼつかない殺人描写や恐怖に追われる様なその振る舞いが一般的なスラッシャー映画よりも遥かに生々しく幻覚や比喩がある訳でもないのに狂った心理(誇大妄想、サディズム、恐怖症、強迫性障害、自閉症スペクトラム、ADHD等)を追体験させてくるのがとにかく見事
そういった点では先日鑑賞した「クリーン、シェーブン」の様でもあるし本作と同じく実在のシリアルキラーを描いた「ヘンリー」にも近しい部分が見て取れる
得体の知れない狂気を淡々とした分析のナレーションで挟み表現しているのがまた何とも言えない後味の悪さを演出していた

初回鑑賞時のスコアを見てもらうと分かる様に1度目は正直あまり良さが分からなかった
しかし様々なホラー/スラッシャー/ゴア/バイオレンス/サスペンスの作品を観てきた今観てみると上手くこなせないからこその不気味さが色濃く味わえてなかなかの物

一般的にシリアルキラーとして有名な人々には高い知能を持つ人が多い
しかしそれは賢いからこそなかなか捕まらい人物の方が印象に残りやすく語り継がれやすい為だろうと言われている
それを踏まえて考えると多くの殺人犯の実態は本作のKに近いのではないかと思う
そういう意味では「屋根裏の殺人鬼フリッツ・ホンカ」にも似た印象が持てる

ゴア/バイオレンス系の作品の中で個人的に特に好きな作品の1つに「August Underground」シリーズがある
そちらでは警察の介入もなく凄惨な犯行が描かれ続ける
本作とは内容こそかけ離れているが描かれる恐怖や不快感の本質としては同じ物を感じられてそこも興味深い点
それに加えて加害者と犠牲者、両方の恐怖が同時に見られるというのも面白い

有名なシリアルキラーの多くには誤解を恐れず言えばカリスマ性がある
本作のK、そしてそのモデルとなったヴェルナー・クニーシェックにはそれは皆無だがだからこそ現実の脅威や狂気が強く感じられた
こういう作品をもっと観てみたいしそれで得られる学びがあるんじゃないかと改めて観てみて感じた
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