KnightsofOdessa

アングスト/不安のKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

アングスト/不安(1983年製作の映画)
5.0
[ギャスパー・ノエの聖典らしい] 100点

大傑作。ずっと原題の『Angst』で調べていたせいで全く引っかからなかったので今更気付いた。Cemさんありがとう!

オーストリア人監督Gerald Kargl唯一の長編作品。一応ヴェルナー・クニーセクという精神異常者の殺人鬼の話を基に脚色しているらしい。刑務所から精神異常者の男Kがシャバに出されてから再び逮捕されるまでをリアルタイムで綴る。ダイナーでウィンナーを食べるシーンを超接写で写す露悪的な描写と女たちの顔との切り返しに思わずテンションがぶち上がる。これだよ、これ!これぞエログロの頂点といった感じじゃないか!タクシーの女ドライバーを殺しそこねて逃げ込んだ森からブルジョワの屋敷にたどり着き、屋敷の家族(母親と娘と車椅子の息子)に襲いかかり、皆殺しにする。しかし、サイコパスと云えど、お世辞には頭がいいとは言えない無計画さな上に、基本的には衝動的に行動して、欲望に忠実なのだ。異常心理と殺人衝動を突き放した目線で語るのは当時衝撃的だったのだろう。世界各国で公開がお蔵入りとなった。しかも、警察や誰か別の人間が捜査するクロスカットや彼を無駄にピンチに追いやる外部の人間が登場せず、基本的には本人とブルジョワ家族三人で映画の登場人物がほぼ全てなのに、一瞬たりとも緊張感を失わない。本当に神がかった映画。

映像には一切会話が含まれず、本人のナレーションが重ねられている。これによって映像と音声がある種切り離され、独特の浮遊感を持って胸を締め付ける。加えて、主人公の目線からハズレた位置で浮いたカメラが360度彼の周りを回転するので、目を背けたくなるのに、一秒たりとも目を背けたくない美しい映像に仕上がっているのだ。

ちなみに、音楽も素晴らしいんだが、これはクラウス・シュルツェが担当しているらしい。出来上がった作品を観て絶句したと言われている。でしょうね。

本作品はノエの聖典らしく、彼の人生に最も影響を与えた作品の一つらしい。確かに『カルネ』『カノン』とかは構成なりカメラワークなりが凄く似ていた気もする。あと多分『ファニーゲーム』とかにも影響を与えているはず。監督は本作品の後テレビ業界に行ってしまったため、フィルモグラフィは少ないが、世界に与えた影響は計り知れないものだった。
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