けー

イージーマネーのけーのネタバレレビュー・内容・結末

イージーマネー(2010年製作の映画)
4.3

このレビューはネタバレを含みます

なかなかにパンチのきいた作品。後味がひどく苦い。

麻薬の売人だろうがヒットマンだろうが生活があれば家族もいる。

ヒットマンが9歳の少女のシングルファーザーになるのは至難の極みだろうし、年老いた母親や妊娠した妹を見捨てて高飛びするのをためらってしまうチンピラもいるし、お金持ちの彼女に釣り合う男になりたいがために犯罪の深みにズルズルとハマっていく学生もいる。それぞれの事情はそれなりに同情すべき点や共感できる部分もあり、それぞれ無事にこの事態をサバイバルできればいいのにと願わずにはいられなくなるのだが、win-winな解決方法はない。
 裏社会で信じられるのは自分とお金だけ。ところが裏社会人ルーキーなJWにはその感覚がまだまだ分からない。どれほど深い闇の中に自分が踏み込んでいっているのか自覚しないままに後戻りのできない危険な袋小路にどんどんとハマり込んでいき、挙げ句の果てに彼は完全思考停止状態に陥ってしまう。

JWとホルヘの間に微かに生まれた細い絆が唯一の救いであるような気もするが、つまりそれは後にJWとホルヘが新興勢力としてのし上がっていくことの暗示なのか、それはまた別の話だ。

セルビア人、アラビア人、ユーゴスラビア、様々な国からの移民で構成される犯罪組織、麻薬がらみの抗争。宗教も言語も違う。JWはビジネススクールに通う学生だったが、上流階級の仲間と金持ちのフリをしてつるむ為の資金稼ぎとして違法タクシーの運転手というアルバイトをしていた。いわば組織でも末端も末端に繋がりを持つだけだったのだが、高額報酬につられて一挙に裏社会の深いところに引っ張りこまれる。そこは容易に人が死ぬ世界で約束などなんの意味も持たない。力とお金がリアルにモノを言う世界。

それなりに頭がよく人を騙せるほどには度胸がいいとはいえ、ただの学生でしかないJWに免疫がないのも無理はない。しかし、刑務所に入ったことで彼は経験を1つ積んだ裏社会人となる。この先JWが真っ当な世界に戻るとは好むと好まざるとに関わらず可能性は低いと思うのだが。
 9歳の娘を突然引き取る羽目になって、仕事をしながら育児は無理だと、最初は里親を探してもらう間に手元に置いとくだけのつもりだったのが、どんどん情がうつって、この子を守るために生きたいと思った殺し屋ムラードも切ない。

というか、殺し屋稼業と育児を両立させるのにはどうにも無理があるというか。この場合、どうすればこの人は娘の側にいることができるのか、見ながら思わず考えを巡らせてしまう。というのも娘にはこの人しかもう守ってくれる人がいないからだ。

あのコの今後もあまり明るくない気がする。

ホルヘも家族を選んだことは良かったと思うが、母親妹と妹の子供を支えるためにはお金がいる。コツコツと一生働いても稼げない大金を手に入れる術を知ってしまったホルヘが再びそこに手を伸ばさずにいるのは、相当な覚悟と精神力が必要だろう。“家族を守るため”なら、進んで身を投じるかもしれない。そして次は今回ほどラッキーである確率は恐ろしく低い。負のスパイラルを断ち切るにはどうすればいいのか、悶々とついつい考えてしまう。

はじめてのスウェーデン映画。階級社会や移民のことなど、言語も含めてスウェーデンのこと全然知らないなぁとつくづく実感。
けー

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