櫻イミト

怪人ドクター・ファイブスの櫻イミトのレビュー・感想・評価

怪人ドクター・ファイブス(1971年製作の映画)
4.0
ヴィンセント・プライス主演作の中でも屈指のカルト人気を誇る異色ホラー・エンターテイメント。デ・パルマ監督、ジョン・カーペンター監督に多大な影響を与えた重要作。監督は「女子大生・恐怖のサイクリングバカンス」(1970)「魔鬼雨」(1975)のロバート・フュースト。

謎めいた屋敷でパイプオルガンを弾くファイブス博士(ヴィンセント・プライス)。傍らでは機械仕掛けの人形たちが合奏し、きらびやかな衣装の美女ヴァルナビアが踊っている。巷では医師が次々と変死していた。事件を追うトラスト警部は各現場に残されたペンダントのヘブライ文字から捜査の糸口をつかむ。エジプトに伝わるファラオ10種類の呪い、煮え湯、コウモリ、カエル、血の呪い、ネズミ、あられ、けもの、ネズミ、長子の死・・・被害者3人の死因はそれぞれ10の呪いに当てはまるものだった。かつての仲間たちの連続死にベサリアス医師(ジョセフ・コットン)は身の危険を感じるが。。。

ケン・ラッセル監督作を彷彿とさせるキッチュな世界観の中で「悪魔の手毬唄」(1977)や「セブン」(1995)のようなバラエティに富んだ連続殺人が繰り広げられる、カルト化するのも納得の怪作だった。好事家に刺さるシーンが続出し個人的にはかなり楽しめた。

ミステリー要素は無く美女ヴァルナビアが何者かなど謎設定の多くは最後まで解き明かされない。徹底してビジュァルに特化した犯罪秘宝館のような内容で、シナリオ充実度は低いため好みは分かれるかも。

しかしその多彩なビジュアル&ギミックは最初から最後まで抜群。冒頭は「オペラ座の怪人」オマージュたっぷりで、マント姿のファイブス博士がアール・デコ調な屋敷でパイプオルガンを打ち鳴らす。矢継ぎ早に、カエル仮面殺人、空中ネズミ殺人、顔面イナゴ殺人など、手の込んだ猟奇殺人が次々とポップに描かれ退屈する暇がない。映像・美術ともキッチュではあるが安っぽくは見えず、ビジュアル系ホラーとして申し分のない出来映えだった。

ラストは一応終幕するもののいかにも続編ありきのムードが漂う。本作だけだと物語としては物足りない。1年後に公開された完結編「怪人ドクター・ファイブスの復活」(1972)の鑑賞が楽しみだ。

※「ファントム・オブ・パラダイス」(1974)、「ザ・フォッグ」(1980)に本作の引用が見られる。
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