チッコーネ

幻想殺人のチッコーネのレビュー・感想・評価

幻想殺人(1971年製作の映画)
3.2
この時期の監督作品はスタイリッシュで好感が持てる。
冒頭から夢幻的な場面の連続、旧態依然の男性目線に支配されてはいるが、赤いビロードのダブルベッドで繰り広げられる女同士の濡れ場は美しく、作品の重要な伏線になっているのも意外だった。
常連のジャン・ソレルだけでなく、スタンリー・ベイカーまで登場するキャスティングも豪華。
また好事家を刺激するゴア要素もチラホラ…、特に犬の解剖場面はグロテスク、その精巧な造形が仇となり、訴訟まで起きたのだとか。

全体的にニューロティックかつ刺激的な内容で面白いのだが、編集が不自然なのはどうしても目に付く。
脚本を鑑みるとヒロイン×ヒッピーの追跡劇は必然性が薄く、決定的なピンチを救うヒットマンの登場も唐突。
「見せ場を増やす」という事情が優先された結果、整合性が損なわれているのは、大きな減点対象だ。
またヒロインの夫の浮気相手が、なぜ夫婦と同居しているのか…、基本的な説明も不足していた。
ベイカー扮する刑事の上司役俳優に妙な味があり、ふたりの会話カットバックはユーモラス。
彼が後半に全く登場しないのも、奇妙といえば奇妙に映る。

開始数秒の現代音楽スコアだけで「あ、モリコーネ」と感づけるのは、最近封切られた伝記映画のおかげ。
工事現場のノイズを取り入れたような音響も…、インダストリアル系より10年早い。