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ロバート・アルトマンのイメージズのCHEBUNBUNのレビュー・感想・評価

4.5
【冗談は幻覚に対する毒薬だ!?】
動画版▼
https://www.youtube.com/watch?v=rm2P_7qY9YM

いろんな監督の傑作選が上映される昨今。ロバート・アルトマンが参戦した。今回の特集上映では、定番の『ロング・グッドバイ』だけではなく、『雨にぬれた舗道』と『イメージズ』も上映される。ロバート・アルトマンといえば群像劇作家のイメージが強いが、サスペンス作品としての側面を掴める特集となっているのだ。実際に観てみるとこれが面白かった。

夜な夜な電話が鳴り響く。謎の女から、夫の不倫を唆す声が聞こえてくる。キャスリン(スザンナ・ヨーク)は、片っ端から受話器を外していき夫の帰りを待つ。彼女の不安は夫が帰宅しても変わらず、田舎で養成することとなる。本作は、幻覚・幻聴に悩まされる者による虚実の重ね合わせが恐ろしく描かれている。例えば、彼女の周りでは足音やガラスの擦れる音が聞こえ、不安を揺さぶる。夫が帰宅し、安堵の瞬間が訪れたかと思いきや、扉からヌルッと虚像が顔を覗かせ、煽りを入れてくるのだ。そんな状況下で、夫は友人を連れてくるのだが、彼はこっそりキャスリンと肉体関係を結ぼうとする。レイプに近い空間が生まれてくる。その実態としての運動の横で、虚像がニヤニヤしながら彼女を見つめる。悪夢のように重ねあわさる虚実。それに対して夫は、無意識に彼女を突き放してしまう。ステーキ肉があるのに、冗談で「えっ買ってないよ」と嘘をつくのだ。虚実が現実としてそこに存在する世界にとって、真実が彼女だけのものなのか、他者から見ても納得がいく形なのかは対話による擦り合わせでのみ明らかとなる。しかし、その擦り合わせの中で嘘が挿入されるとパニックを引き起こすのだ。

本上映の公式Twitterによると、ロバート・アルトマンは「映りこみや鏡像というもの、実像を破壊して異なる様々なレイヤーを現実に与える映像に私は常に魅了される。」と語っている。不自然に立つ、カメラが破損する。事実を捉え、共通の真実を積み上げていく象徴が破損したことで、彼女の真実が、他者の持つ真実と乖離していき、拒絶し殺しても復活する幻覚が強化されていく様子は本作において最も光る演出と言えよう。『裸のランチ』において、書く行為が異なるレイヤーを繋ぎ止める役割を果たしていたが、繋ぎ止めていた金具が外れた世界での狂気が激る作品。それが『イメージズ』であった。
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