みかんぼうや

アリゾナ・ドリームのみかんぼうやのレビュー・感想・評価

アリゾナ・ドリーム(1992年製作の映画)
3.1
私のライフタイム・ベストであり唯一★5.0をつけている「アンダーグラウンド」のエミール・クストリッツァ監督が、その「アンダーグラウンド」のひとつ前に製作した本作。

「アンダーグラウンド」以降のクストリッツァ作品に見られる強烈な勢いとドタバタ感、コメディ性は驚くほど控えめ。おまけに舞台が自国(ユーゴ諸国)ではなくアメリカなものだから、事前に知らなければ、彼が撮ったと気づかない可能性もあるほど、クストリッツァ色は薄いです。

“薄い”と書いたのは、その色が完全に無いわけではなく、ちょっとしたシーンで動物を多用したり(本作はカメ、猫、豚など)、首つり自殺しようとした紐がゴムのように伸び縮みしてバウンドしたり、セリフの裏で民族音楽を演奏させたり、と後の作品に感じる“らしさ”はしっかり見られるからです。あと、クストリッツァ、空に人を飛ばすの好きですよね。本作は、話の中心がまさにそこにあるのですが。空に憧れがあるのかな?

主演は「ギルバート・グレイプ」ばりに普通の青年を演じるジョニー・デップ。脇には、若かりしヴィンセント・ギャロ、となかなか魅力的な要素は揃っているのですが、正直全然ハマれず。楽しみどころが分かりませんでした。

自分にとって史上最高の映画を創った監督なのに、この監督の他作品は個人的に当たり少ない(「アンダーグラウンド」以外で好きなのは「ライフ・イズ・ミラクル」くらい。まだ観てない作品も3本ほどありますが)。本作もそうですが、脚本や演出が直球でないというか回りくどく、ノイズの多さを感じてしまうのですよね。

「アンダーグラウンド」は、自国の歴史を描く元々のストーリーラインやメッセージがかなり重厚かつ骨太で筋が通っているため、その直球でなく少し茶化しや遊びの部分がノイズにならず、本来であれば暗く重い話を逆に思いっきりエンタメ化しつつ非常に中身の濃い歴史社会派作品の傑作に昇華したと思います。

が、本作や「白猫・黒猫」あたりは、パワフル&ドタバタ演出による枝葉のほうが茂っていて、肝心の幹となる物語がぼやけて見えてしまい、その内容にのめり込むことができませんでした。

とはいえ、私にとって「アンダーグラウンド」は奇跡のような映画なので、またあの絶妙なバランス感を期待して、まだ観られていないクストリッツァ作品は少しずつ観ていきたいと思っています。
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