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娼婦ケティのarchのレビュー・感想・評価

娼婦ケティ(1976年製作の映画)
3.0
最後に出てくるテロップによって本作の主人公であるケティは実在の人物をモデルとしたキャラクターであり、事実に基づいていると語られる。
加えてそこには「不屈の精神」だとか彼女ののし上がり人生を肯定するような言葉が羅列される。

ただ自分が本作から感じ取ったものは、19世紀のアムステルダムにおいて貧しく美しい女性が如何に搾取されるのか、また主体性の獲得が難しいのかというものである。彼女は確かに"耐えていた"。ただ本作のあまりに行き当たりばったりの連続で結末を迎える様からは「不屈の精神」という言葉から受け取れる抵抗するという意味合いとは違い、ただ流されていったのだと感じられる。それは確かに当時の彼女の"必死"だと受け取れもするが、ただ少し馬鹿な女の子が騙されながら、運良く最後に金持ちに見初められたというのが率直な感想であった。

そういった話よりも目を奪われるのは、ポール・ヴァーホーヴェンのリアリズムだ。『危険な愛』においてもトイレと生活空間の距離の近さは、映画というフィクションにおいて異常。しかしそれはもちろん現実的であり、その徹底ぶりなポール・ヴァーホーヴェンのリアリズムなのだ。
そのリアリズムは性という観点において、より鮮明に描写される。姉が娼館にいるのを目撃してしまった瞬間は本当に見事。
そこに付随する鏡の使い方、そして最も印象的な影の使い方。ある意味、直視するよりも「現実」で突きつけるその間接的な描写。本作の白眉である。
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