zhenli13

神曲のzhenli13のレビュー・感想・評価

神曲(1991年製作の映画)
4.5
なんというラスト…!オリヴェイラのこういうサッとぜーんぶ軽やかに鮮やかにちゃぶ台返しするのがすごいな〜と観るたび思う。長尺だけど本作はどこも退屈するところがなかった。

「精神を病んだ人の家」で各人がアダムとイブやラスリニーコフやイエス・キリスト、ニーチェなどを誇大妄想的に「演じている」。院長や看護師も登場し、彼らは患者のようだが「演じている」ことを否定する者は誰もいない。シーンは「精神を病んだ人の家」の敷地を出ることもなく進行するのかと思ったら中盤で突然外を走るバイクのシーンが入る。イワン・カラマーゾフを名乗る男とその兄アリョーシャ、院長の三者によるシーンで初めて、視線が交わされる対話が成立する。そこまで「演じている」人々は(無言のアダムとイブを除いて)視線を交えずに対話している。切り返しでも肩なめなどは無く、基本的に台詞を言う主体のワンショットの切り返しで、会話してるのに断絶しているように見える。しかもカラマーゾフ兄弟らは「演じ」てはおらず、『大審問官』の物語を読み聴くというシーンとなる。これが潮目の変わる符牒となり、「罪」を償うかのように園庭をいざり歩きし続けるラスリニーコフとソニアのシーンで崩壊の途が極まる。

ヨーロッパ・キリスト教圏における根源的な問いをストレートに投げかける物語の構造として「演じている」ことがベースになっていること自体が面白くて、群像の役の一人として登場するピアニスト マリア・ジョハン・ピルシュの演奏がまた素晴らしく見応えがある。常連レオノール・シルヴェイラやマリア・デ・メディロスの美しさ!

院長役のルイ・フイタードは撮影中に急逝し、オリヴェイラが代役を務めているシーンもあったらしい。実際に急逝した人が首を吊る役というのも何ともオリヴェイラらしい?皮肉。
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