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血ぬられた情事のニューランドのレビュー・感想・評価

血ぬられた情事(1949年製作の映画)
3.5
☑️『血塗られた情事』(3.5p) 及び『裏切りの街角』(3.5p)『大いなる罪びと』(3.5p)▶️▶️
恥ずかしい事だが、本特集のチラシを観るまでシオドマークのハリウッド滞在活動期間がこんなに限定されてたとは知らず、これらは1期=メイン期の終期の作となるわけだ。渡米暫くの、ユニーク⋅偏執狂的⋅部分集中度は薄れ、全体とその影響力を考えた、どっしりした組み立てとなってて、身近にソクソク沁みてくるテイスト⋅安定性になってる。
『~情事』。 光と影の揺らぎ、フォローやそれに沿いつつ空間を左右⋅前後⋅上下に気づかれね滑らかさとシャープな機能性を示すカメラ移動、事件の勃発⋅窮地とそれを潜り抜ける検事=弁護士の無言の結託、その守るべき愛を揺るがす過去の発掘とヒロインへの不信の拡大。
まぁ『情婦』『めまい』みたいなトーン⋅話でもあるが、驚き⋅鮮やかな話術に感心する作でもなく、むしろ今だと『プロミシング~』に匹敵の、ヒロインを演じた俳優の役柄上の真意の、展開のトリックを無化するような、滋味⋅抑えた豊かさにじっといつしか浸ってる様な作。切返しの角度の浅さ、じっと捉え中のカットの僅かな切替え、等映画的集中度さえ、避けてる気がする。
妻の父の同業検事の格⋅押付けに圧迫され、妻子と素直に愛情交わせぬ男に、仕事の同僚への依頼が誤ってくる。その女と、似たような寂しさから、やがて真剣に愛するように。2人で旅に出る夜、最近世話で同居し始めた女の伯母の強盗殺人事件が重なる。駆け付け(すぐ近くの雇ってた護衛にも後ろ姿を見られ)た男は、籍は切れてない女の夫の⋅財産狙いの線もある事件に巻き込まれたと、殺害証拠揃いの女を救う決意を。強力検察側の彼の上司と若手自分が入れ替わる⋅審議後は陪審員の同情をかう強い弁論を、巧妙に工作す。しかし、実は元より夫などではなく、犯罪コンビでそれを続けての事件? の、不信の事実も出てくる。全ては女の罠にはまったとわかるも、その時は女は愛する男の為に、夫としてた男のひとり高笑いを、事故に巻き込み、自らの生命と共に抹殺していた。大人しめも素晴らしい味わい。
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『~街角』はヴェーラでもよくやる作品だがまたついでに観た。部分部分の構図が素晴らしく隙もないが、やはりかなり息が抜ける感じで、細かいカッティングは敢えてか精密さを避けてるような気がする。その代わり、ナレーション⋅回想⋅白煙⋅メンバーや家族の揃い図等を、味わい深く組合せ、端から女がファムファタールの典型なので、純情さつづく主人公も⋅権力や策略に長けたボス=新しい夫へも⋅裏切る事は明かだが(もっとせせこましい正体へ)、雰囲気⋅流れ⋅キャラの絡みの味わいをたっぷり安心して楽しめる。
巨額現金輸送車強盗に、内部協力者必要と、(ロス帰還者の)未練ある前妻がたまたま手の内にあり、組織は利用してくも、裏切りが重ねられ、三者とも死か御用に。ランカスターはやはりB級枠を、一人はっきりはみ出す存在感をものしてる。
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『~罪びと』は、見始めて直ぐ誰もが気づくだろう、ドストエフスキー『賭博者』辺りから持って来たような安易な企画の作だが、老若の6人位か、大スター⋅名優が自分の持ち場からガッチリ固め合って、魅力⋅風格⋅変妙を披露、カジノや(高低⋅大小対比力⋅光芒の)教会のスケール⋅威力や俳優の鏡絡みの形相変化も素晴らしくor凄まじい造型が魅せる。作品を収束させる集中力には欠けるも、停滞しない着実で目も惹き付ける進行タッチで、見応えや納得充分の作で、当時の5本枠なら無理でも今の10本枠なら、アカデミー賞ノミネートも場合によっては果たせそうな作。
1860年代、欧州のカジノ都市で、愛の力で恋する女を救った、作家が彼女の陥ってた賭博禍に今度は自分が嵌まり、「数字と人のつながり」への「情熱」「運命」「目的は人より只カネ」「賭ける事出来なくなると死」観に、「重病」化してく話。「愛、キリスト、道徳、自由、何より大切な人の為」対「堕落、悪徳、悪魔、権力、憎悪、賭博師の形成」の葛藤が滑らかに厳かに繰り返され高められてく。ルーレットやカードに全く興味のない私でも、当事者に近くしてしまう、仕草⋅表情⋅心理⋅捌き⋅カッティング。
たかだか10年の滞在で、ハリウッドの才気⋅新機軸⋅泥臭い洗練を担ってた作家が、終盤には、幾らか本来のミステリアス体質は残しつつも、安心して没入できる⋅やや異才作家という所にシフトしてきて、その順応⋅その上での開拓の質の深め、に今の時代にはあり得ないある種、表現者の育つ土壌の豊かだった時代を思う(今ならコーエン兄弟が近いのか)。しかしそれでも、特異を守り、ユニークに成長の作家だ。


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