垂直落下式サミング

タランチュラのキスの垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

タランチュラのキス(1972年製作の映画)
4.6
主人公の女性が正面を向いて微笑む場面で映画が始まる。風になびく直毛のブロンドヘアと、正面を真っ直ぐに見つめる瞳の美しいこと。
主人公は少女時代からクモオタクで、クモ嫌いのお母さんから毎日ツラく当たられているのだけど、お父さんはクモ趣味に理解を示してくれるので大好き。
ある日、母親が父親の弟と不倫関係にあることを見てしまって、あろうことか、その叔父さんと共謀して亭主を殺すNTR計画を練っているのを知ってしまったため、先手を打ってママの寝室にタランチュラを送り込み、ビックリドッキリ心臓発作を起こさせて殺害!パパ殺害計画を未然に阻止したのである。
時は流れて、年頃の美しい娘に成長したスーザンだが、内向的な性格から友達は少なく、地下室に引きこもってはペットのクモばかり愛でていて、いつまでもファザコンが抜けきれない。そして、同級生たちにペットのクモを殺されたことから、その怒りを爆発させ、自分にとって都合の悪い人間をクモをけしかけて殺す女殺人者となってしまうのだ。
本作では、主人公に言い寄る男たちの距離の詰めかたが例外なくキモい。友達の死の真相を探ることが目的でスーザンに近づいただけのはずなのに車のなかでナルシズム全快な感じとか、かつての愛人の面影を残す兄の娘を手籠めにしようとするロリペドオヤジなど、どれも嫌な感じで、別段フェミニストでなくとも、そんな男たちを拒絶する彼女に感情移入させられる。
特に、叔父さんの気持ち悪さは一級で、お前のために何かをしてあげたからと、行動に対価を求める男のなんと醜いことか。こういう描写を見るたびに、ああはなりたくないと奥手になってしまう。
終盤で、叔父さんと対峙するときに彼女が着ているネグリジェは無意識に成長を拒絶しているかのような雰囲気で、少女でも大人の女性でもない不思議な感じ。さらに、ここでも冒頭のカメラ目線を披露。ここぞというときに直球勝負ができる女優だ。他に主演映画が見当たらないのが不思議なレベルである。
ひとつ残念なのは、彼女がベッドに横になりタランチュラを手に乗せパジャマを捲りあげて、そのコを使ってさあ今からひとりエッチに勤しもうかとしているところに、唯一の男友達から電話がかかってきてしまう肩透かしな展開。普段はお父さんが家にいるからできないお楽しみに水を刺すのが野暮だし、このボーイフレンドのジョーはあまりストーリーに絡んでこないのにもかかわらず、彼女がまんざらでもなさそうな反応をするのが期待外れだ。少女×人外は圧倒的マジョリティな性趣向なのだから、恥ずかしがらず直球勝負で満足させてほしい。
リメイクするのなら、タラニーとはどんなものなのか、克明に映像化してほしいところである。