せいか

グレート・ミュージアム ハプスブルク家からの招待状のせいかのレビュー・感想・評価

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05/24、Amazonビデオにてサブスク視聴、字幕版。
日本での公開当時にミニシアターまで出掛けて観に行った作品で、今回は再視聴になる。当時は劇場であまりにも嫌な思い出ができたのもあって、作品内容をキックスクーターの場面以外思い出せないくらいだったけれど、なんだかんだ観始めると徹頭徹尾、そういやこんなんだったなあと思い出しながら観ていた。
美術館に訪問していた大英博物館のひとがはしゃいでるのを眺めるのが山場みたいな作品である。

本作はウィーンの歴史ある美術館である、美術史美術館(Kunsthistorisches Museum)を舞台としたドキュメンタリー作品で、建物の改装工事を始めてリニューアルオープンするまでの2012〜2013年の美術館内部のバックヤードの様子をメインに映し出している作品である。
作品紹介にあるように、「館長、学芸員、修復家、美術史家、運搬係、清掃員。個性的なスタッフたちがつむぐ小さなドラマは、組織のなかで働く苦労や、芸術を扱う仕事が持つ困難さを切実に描き出す。美術館のブランド戦略をめぐって紛糾する会議。収支バランスを問うてばかりの経営陣。下っ端扱いを嘆くサービス係。完璧主義の修復家。芸術とビジネスとが同居する場で巻き起こるのは、どれも普遍的でありながらユニークな問題ばかり。」……という、まさにそういう内容ではあるのだけれど、ドキュメンタリー作品としての軸が曖昧なところがあり、この作品紹介で言われているほどにはそれらのどれも抽出できていないところがある、残念な作品となっている。繰り返すように、撮影時期は大規模な館リニューアルを追う内容でもあるのにも関わらず、その節目の様子を照射できているものにもなっていない。だから印象に残ってないというのもあったんだなあと、改めて観ながらしみじみ思った。経営との折衝も含めたバックヤード部分をひたすら映しているのに中身がないというか、ただ撮ってちょっとした記録としてまとめてるだけという感で、もっとどっかに軸を置いてドキュメンタリーにちゃんと昇華しようもあったのでは……。

このレベルの美術館でも商業的な価値の在り方という頸木から逃れられない上にそもそも資金もカツカツで、新しいコレクションを購入するためのお金もお話にならない額しか用意できないとか、そういう悲惨さとか、組織内の格差社会的なものだとか、そういうのはほんのり味付けされて映し出されて観てて分かるようにはなっているけど、繰り返すように軸がないのでうっすいまま映像は流れていく。
一般的なメンテとかの様子に関してはそれなりに取り上げられているけれど、いかんせん軸のないままざっくり映し出してるだけなので、どうせ映すだけにしても改装にまつわる資金繰りしつつの内装デザイン思案とか、改装作業そのものの様子に尺を取ってほしかったとも思う。そのへんの具合とか、なかなか博物館学的なものはかじっててもそうそうどうやってるのか覗き見れることはないわけだし。

作中で責任者の退任もこのリニューアルと重ねて行われるくだりがあるのだけれど、少人数で双方淡白に行っていたのはなかなか胸にくるものがあった。最低限の礼儀による言葉の少ないやり取り。国からの感謝状の内容すらコピペで済ませられそうな底の浅さ。別のシーンで、館内で主に鑑賞客と対人する機会が多いサービス業務に就いているような人達がメインと思しき会合で、女性が、館全体の集まりがあっても学芸員たちだとかとの交流が一切できないことを語っているくだりがあったけれど、ここの退任のシーンを観ててもそういうものを思い出したりもした。
そもそも本作において館の人たちがビジネスや自分の仕事のためのもの以外の、普通に人間同士の交流として会話してる場面が極端に少ないという特徴がある。ビジネスなり仕事の会話シーンにしても、相手と向き合って話しているというような雰囲気の解れたものはほぼないとさえ言える。だからこそはしゃいで見せてくれている大英博物館の関係者のシーンが印象深くなっているのもあると思う。プロフェッショナルの表現のためにそうなっているというより、館がギリギリで運営しながら歴史の重圧にも軋んでいる様子をより補強するためにそういう構成になっているのではないかと思う。そういう意味ではドキュメンタリー作品としてちゃんとまとめられてるとは言えるのかもしれない。
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