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マルコヴィッチの穴のEyesworthのレビュー・感想・評価

マルコヴィッチの穴(1999年製作の映画)
5.0
【変身の哲学】

スパイク・ジョーンズ監督の長編デビュー作
俳優ジョン・マルコヴィッチの頭へとつながる穴を巡る不条理コメディ。ジョン・マルコヴィッチ役のジョン・マルコヴィッチ本人は勿論、チャーリー・シーン役でチャーリー・シーン本人も共演。

〈あらすじ〉
人形遣いのシュワルツ(ジョン・キューザック)と妻のロッテ(キャメロン・ディアス)はひょんなことから映画俳優のジョン・マルコヴィッチ(ジョン・マルコヴィッチ)の頭の中につながる穴を見つける。そこに入ると誰でも15分間マルコヴィッチの脳内に入り込めることができた。同僚でシュワルツが片思い中のマクシーンと共にこれを利用して商売を始めたところ、そのマルコヴィッチの穴は大繁盛、連日行列が続いた。自らの異変に不安を覚えたマルコヴィッチは友人のチャーリー・シーンに相談する。そしてマルコヴィッチ本人がこの不可思議な現象に直面してしまう…。

〈所感〉
これぞ不条理コメディーの傑作。シンプルに脚本がめちゃくちゃ面白い。チャーリー・カウフマンが凄いのか?見てない方は是非とも一度は見てほしい。めちゃくちゃオススメです。この映画でめちゃくちゃイジられてるちょっと頭が寂しい俳優ジョン・マルコヴィッチ。正直彼のことを全く知らなかった私でもハマったのでこれを見てる貴方もこの穴にハマること間違いなしでしょう。マルコヴィッチさんあなたよくこんな映画オファー受けたな!仕事選んだ方がいいよ!でも結果的に彼のキャリア史に残る最高の演技だったろうし良かったのでは?
序盤から先ずおかしい。求職中のロン毛の人形シュワルツが採用面接のため向かったのはとあるビルの7階と8階の間にある7と½階。フェリーニの映画かハリーポッターのプラットホームか?このフロア何がやばいって天井がめちゃくちゃ低いためそこで働く社員がみんな腰を折っている。変な家どころじゃない。人々が平然と変なフロアで働いているこの画が面白すぎる。そしてこの物語の核となる謎の穴の発見。そこはなんと俳優ジョン・マルコヴィッチの脳内だった!という画期的な設定。それに伴うキャメロン・ディアス演じる妻のある目覚め。シュワルツのマクシーンとロッテの関係の発展による複雑な感情の行き着く先。けどやはり一番の見所はマルコヴィッチ本人がマルコヴィッチの穴に入った時のヤバすぎる光景。これは百聞は一見にしかずなので是非その目で見ていただきたい。脚本がシンプルでわかりやすく誰が見ても単純に面白いが、心理学的・哲学的にも興味深い題材ではないだろうか。人は誰しも自分以外の別の誰かになりたい、という変身願望を少なからず持っているものだ。もし、それがたった数分でも叶えられた時に果たしてあなたはどんな感情を抱くだろうか?ずっと変身していたいと思うのか?それとも元の自分に戻りたいと思うのか?疑問は絶えない。この映画では、そんな疑問に対して二通りの異なるアンサーを突きつけているように思う。一つはロッテの成功の解。彼女は元々性的倒錯を持っていたために、マルコヴィッチの穴によって自分が男性の状態で女性のマクシーンに愛されることで、これまで味わったことの無い天変地異の歓喜と興奮を得た。そして、ロッテはマルコヴィッチから抜けた後も彼女と同性同士で愛を育むことができた。もう一つはシュワルツの失敗の解。シュワルツは自分への不甲斐ない現状による劣等感から、スターで周りから無条件にチヤホヤされるマルコヴィッチそのものに成り代わってしまった。一見成功したかのように見えたが、なんとその結末は…。この二人のルートの違いは、マルコヴィッチ本人になりたいか、または別の人生を歩みたいかだったのだと思う。ロッテは男性に一時姿を変えたことで、本来の姿でもマクシーンに愛されるという願望を叶えた。それは別にマルコヴィッチでなくとも良かったのだろう。あくまでマルコヴィッチは媒介物に過ぎなかったのだから。変身を超えて理想の自分に転身した。これこそが本来の変身の成功例だったのだ。なるほど、一生違う人物になってしまったら、それはもはや違う人物であり、もはや変身とも言えない、という奇妙な事態に直面してしまう。変身にはタイムリミットがあるからこそ変身なのだ。
何が言いたいかというと、ハロウィン当日は渋谷でジョン・マルコヴィッチの仮装を皆で楽しもう(違う)
一夜限りにこそ幾千の夢がある。そう、シンデレラのように。
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