くりふ

闇のバイブル 聖少女の詩のくりふのレビュー・感想・評価

闇のバイブル 聖少女の詩(1969年製作の映画)
4.0
【ロリータの耳飾り】

邦題、大仰。「ゴスロリのバイブル」なら、作品の肩書きとしては近いかも。

原作はチェコの著名な詩人、V・ネズヴァルという人の小説だそうですが、ロリータの妄想を、耽美と笑いを同居させ軽いテンポで綴った本作、原題「ヴァレリエの不思議な一週間」の方が、トーンとしては合っていますね。

チェコの田舎に住む13歳の少女ヴァレリエは、うたた寝の間に、男の手で耳たぶから直接、耳飾りを盗まれます。これが妙にエロティック。

それが刺激となったのでしょうか、彼女のからだに女の兆しが訪れます。白と黒ばかりの世界の中で、カモミールの花弁に滴る赤い雫が艶かしい。

ヴァレリエの妄想は、そこから小さな世界を生み出すようです。その中で彼女は、思いつきを次々殴り書きするように、脈絡なく物語を進め世界を綱渡りしていきます。襲い来る試練も、自分に都合よく波乗りしながら。

近親相姦と純愛、若さと老い、神と悪魔…といった重いお題が、少女の世界に侵食しても、彼女に遊ばれてポン、と外に放り出されるよう。こんな軽さが、潔く、心地よい。幼いことは、強さでもあるんですね。

少女は神より悪魔に惹かれるもの、ということも改めて教わりました(笑)。建前より本音に忠実、という意味ではその方が健全だとは思いますが。少女の世界に登場する神父は、お笑いキャラとして遊ばれいい味出してます。ロリータに欲情し、珍妙な「胸毛ダンス」を始めたのには大爆笑しました。

でこの神父、逆ギレして○○狩りなんぞ始めて「懺悔しろ!」と叫びますが、その言葉が、ちんぽかーに!…としか聞こえないのですよ。まあ本人が悪いわけじゃないですが、ちんぽかーにと言われても懺悔はせんだろう…と思ったらやっぱそうでした。

まぁ散々な神のしもべでしたが、悪魔側もけっこう、似たような情けなさで、一見、か弱い存在な少女ヴァレリエの、逞しさがかえって引き立つのでした。

初潮を迎えた少女の妄想は、性への関心がはじまりなので、それ系描写は頻発します。が、まだ彼女が快楽について知らないせいか、画面も薄味で、いやらしくないのです。ここ面白い。

全体に画面はとても美しく、大スクリーンで見たかったカットが頻発します。しかし美術が優れているというより、美しい素材がごろごろ転がっていてそれをしゃきしゃき撮り収めた…という印象でした。チェコ、侮りがたし。

飛びぬけてよかった画は、白で統一されたヴァレリエの自室。細長い室内を、『2001年』ディスカバリー号内部をなめる導線に似た天からの視点で、それが窓へと歩く彼女をゆっくり追って、その強烈な遠近感は、地上にはない非現実な、彼女の聖域のようでありました。

<2013.9.17記>
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