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フレンチ・コネクションのMASHのレビュー・感想・評価

フレンチ・コネクション(1971年製作の映画)
5.0
言わずと知れたウィリアム・フリードキン監督による傑作アクション映画。初めて観た時はとにかく終始ハラハラドキドキして「なんて面白い映画なんだ!」と思うのと同時に、「なぜこんなにも面白いのだろう?」という疑問も持っていた。言ってしまえば、しかめっ面のおじさん達が別のおじさんたちを追いかける、それのみの映画。カーチェイスは派手だが、ほとんどは張り込みをしたり尾行するシーン。お世辞にも華のある映画とは言えない。深い心理描写やテーマ性などほとんどない。というか、セリフすら少ない。そんな映画がなぜ映画史における最高のアクション映画となったのだろうか。

それは上記に書いたこと全てを意図的にやっているからだ。ウィリアム・フリードキンはこの映画を作る際、ハワード・ホークスからこんなアドバイスを受けたらしい。「誰かの抱えている問題や精神的な厄介ごとについての話なんて誰も聞きたかねぇんだよ みんなが観たいのはアクションだ」と。そして出来上がったのがこの映画だ。映画まるごと使ってのチェイス・ムービー。しかもそれを乾いたドキュメンタリー調で描いているのいうのだから、まさしく無駄な贅肉を削ぎ落としたストイックな映画だ。

もちろん単なるアクションの詰め合わせにはなっていないというのは言うまでもないだろう。かの有名なカーチェイスから、ニューヨークの寒空の下での地道な張り込みや尾行。その全てがヒリヒリとした緊張感のもとで行われる心理戦として描かれている。その冷たい空気感、切迫する音楽、そして互いの心理状況を言葉ではなく演出のみで表すという。こうやって文字で表現してしまうと凄さが伝わらないのだが、この映画はこれらの要素が一切の非の打ち所がないほどの高いレベルで描かれている。展開や結末を全て知ってもなお最初から最後まで手に汗握ってしまう。

最初の方で「深い心理描写はない」と書いたが、全くないわけではない。というか、ある一つの心理をとことん突き詰めていると言える。主人公のポパイを突き動かすもの。警官としての正義でもなければ、昔仲間を失ったことの罪悪感などでもない。そこにあるのは執念だけである。そこに何か裏のメッセージがあるとか、そんなのではない。単純かつ何よりも強烈な感情。ポパイが抱くこの感情は終盤になるにつれてどこか狂気にも近いものへと変わっていく。この映画で何より恐ろしいのは主人公なのだ。そんなポパイにジーン・ハックマンは完璧に成り切っている。うまくは言えないが、この映画にいるのはジーン・ハックマンではなくポパイという男そのものなのだという、そんな感覚に陥ってしまう。そのぐらい彼は役に入り込んだ演技をしているのだ。

散々感想を書いといてなんだが、正直『フレンチ・コネクション』という映画の前ではどんなレビューも意味をなさないと思う。なぜならそこに映し出されているものがこの映画の全てだからだ。無駄なものを徹底的に省いて、104分の中に監督や俳優をはじめとするこの映画に関わる全ての人々の持てる技術や才能を全て注ぎ込んだ映画。そんな映画に「最高に面白かったです」とひれ伏す以外に何ができようか? 好きな映画と聞かれれば何本でも思いつくが、完璧な映画となれば僕にはこの映画くらいしか思いつかない。そう言わざるを得ないほどの傑作だ。

2回目 5点
(2020年11月26日 Blu-ray)

1回目 5点
(2016年3月15日 DVD)
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