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老人ZのMASHのレビュー・感想・評価

老人Z(1991年製作の映画)
4.0
大友克洋が原作&メカニックデザイン、江口寿史がキャラクターデザイン、そして今敏が美術設定と、サブカル好きには堪らないであろう組み合わせ。そこで何が描かれるかと思えば、寝たきりの老人がロボットに取り込まれ暴走するという、なんともニッチな内容。だが、介護問題や高齢化社会、QOLといった問題を取り扱っている点では、今でこそ観られるべき作品になっている。

ロボット、AIの暴走というのは珍しいテーマではない。むしろ溢れ返ってるくらいで、身近で現実になってきたという点では興味深いものの、映画としては正直飽き飽きしてる部分もある。だが、この映画はそこに日本で特に問題視されている高齢化社会、それに伴う施設や病床、介護士の不足などを主なテーマとしている。

更に描き方も感動要素はあってもシリアス要素はほぼなく、終始コメディに振り切っている。それもテーマもテーマだけにブラックより。この辺がとても大友らしい。介護ロボがお爺さんを乗せたまま町を爆走するのは面白いが、その裏に隠された真の目的などは笑えない内容。劇中にも「悪い奴ほどよく眠る」というセリフがある通り、強大な権力を前に個人がやれる事ははんのわずかであることを自覚させられ、どこかやるせなさの覚える。

と同時に、この映画は人の意識の変化、もっと言えば希望についても描いている。効率化も大切だが、その人と触れ合うことでその人の人となりや望むことを知り、QOLを上げていくことの重要性は無視してはならない。中ではそれに気付き、考えを改める者もいる。そうやってまず一人が変わることで、その波が少しずつ大きくなっていく。そういう微かな希望や人の温かみも感じられるのだ。

強いて言うなら、主人公が"聖母"過ぎることに違和感が。彼女にも効率を重視すべきか、個々人を尊重すべきか、その狭間で悩む存在であって欲しかったかな。その方が観客にも問題提起として効果的だったように思える。

ただ、こういった深刻な社会問題をコメディ漫画のようなタッチで、尚且つ先見の明を持って描き上げた。それだけでもこの映画はすごいと思う。更に魅力的なキャラデザに、ロボットなのに妙に有機的なメカデザインなど、アニメとして見るべき点もたくさん。アニメ作品が好きなら観て損なし。

社会において介護が抱える問題は、答えをパッと出せるものではない。効率だけを追い求めてはそこにいる人間の意志を無視することになるし、感情論だけでも現実は変わらない。ではどういう塩梅で解決へと導いていけばよいのか。そこは観ている僕らがこれから考えていかなければならないことなのだろう。
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