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『7thターゲット/第7の標的』に投稿された感想・評価

HK
2.6
いきなりスコボコにされるヴァンチュラ、さらに車運転してたら追い回され、やめて欲しくば金寄越せと脅迫される。そんな大金ないので、金持ちのオカンを頼るが、また女か!と言われて帰るヴァンチュラが切ない。『死にゆく者への調べ』(72)と違い、なぜ追われるかはミステリ的だがオチは平凡、だがそれが主眼じゃなく、『激突!』(71)的に追われまくるヴァンチュラを楽しむ映画なのだ、これは。しかし『死にゆく者への調べ』と共通するのはクライマックスがオーケストラと重ねられることで、当然元ネタは『知りすぎていた男』(56)でジャンル映画の伝統に則っている。ここでマッセリはヴァンチュラの親友の妻。今までなぜ私を口説かなかったの?とエレベーター内でヴァンチュラに迫る。ふたり、歳取ったなあという感慨とともにかつての映画がフラッシュバック。そこにはもちろん『死にゆく者への調べ』もあるわけだ。両作とも、脚本書いたのはトルシエの通訳フローラン・ダバディの父ジャン=ルー。
話自体は興味深いのだが、ダバディパパの脚本って捻りを加え過ぎて、暴走気味。これがエスプリか(多分違う)
3.5
ベルリンの壁の際までカーチェイス
 
1984年のクロード・ピノトー監督作品。彼は助監督の経験が長く、ジャン・コクトー、ジャン=ピエール・メルヴィル、アンリ・ヴェルヌイユ、クロード・ルルーシュなど錚々たる監督たちと仕事をしてきた。監督としてはやはり、ソフィー・マルソーを主演にした『ラ・ブーム(1980)』と『ラ・ブーム2(1982)』が有名だろう。ロマンチックな青春映画で、世界中で大ヒットを記録した。ソフィー・マルソーのアイドル映画を撮る一方で、ピノトー監督は長編デビュー作『死にゆく者への調べ(1972)』から続くリノ・ヴァンチュラとのコンビ作も4本あり、本作『第7の標的』はその4本目。1987年に亡くなるリノ・ヴァンチュラにとって最後の主演作である。
 
バスチャン(リノ・ヴァンチュラ)は雨が降りしきる夜、突然男2人の路上で襲われる。普段のリノ・ヴァンチュラが演じるギャングやスパイなら、2人の悪漢など返り討ちにしそうなものだが、本作での彼の役は有名な記者だった男ということで、簡単にボコボコにされてしまう。自ら病院に行き、帰宅後には家に無言電話がかかる。誰がなんのために行っているのか分からないバスチャンに対して、その後も高速道路で走行中の車をギリギリまで近づけてあおられたり、前に回って急ブレーキを掛けられたりと嫌がらせではすまないような行為が続く。別の日には車をぶつけられるなど次第に激しくなり、最終的には家に停めていた車を爆発されてしまう。記者時代のトラブルか個人的な怨恨か全く分からないまま不気味な犯人に追いつめられるのはスティーヴン・スピルバーグ監督の『激突!(1973)』のようだ。『激突!』が1本丸々1人の男が追いかけられるだけの映画であるのに対し、本作には常に酔っぱらっていて一言多いがバスチャンの親友のジャン(ジャン・ポワレ)や彼の妻ネリー(レア・マッサリ)、バスチャンが養子として男手ひとつで育てているピエール(カロル・ベッファ)など支えてくれる仲間や守らなければならない子供がいる。彼らの力を得てからは『激突!』的な孤独な男の不条理劇から、何事かに巻き込まれ追いつめられながら、犯人を暴いていくヒッチコック作品のようになっていく。
 
後半は舞台がベルリンへと移る。バスチャンが娘のようにかわいがっている姪のローラ(エリザベート・ブルジーヌ)がチェリストとして参加している楽団がベルリンで公演しており、犯人は彼女に接近していたのだ。警察の協力もありバスチャンが犯人を追うクライマックスがローラたちのオーケストラの本番と並行して描かれる。これなどまさにヒッチコック的で特に『知りすぎていた男(1956)』を想起させる。ほかの場面でも、バスチャンの母が描いたという絵画を布で拭うと下から巨匠の絵画が出てくるところと、『知りすぎていた男』で殺された黒人の男の顔を拭うと実は黒塗りで白い肌が出てくるところなども類似点として挙げられるだろう。
リノ・ヴァンチュラにとって最後の主演作ということで、若いころのように身体能力を活かした場面はないが、老境に入った彼の渋さは特筆ものだ。また、本作のサスペンスの終着点がベルリンの壁のこちらにとどまるがどうかというのも時代を感じられて興味深いところだ。