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ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド ゾンビの誕生のnoteのネタバレレビュー・内容・結末

3.9

このレビューはネタバレを含みます

墓参りにやってきた兄妹ジョージとバーバラ。そこに突然、甦った死体が襲いかかる。ジョージは格闘の末に死亡し、近くの家に逃げ込んだバーバラは他の避難者たちと合流する。しかし一行は死者の襲撃を前にしながら対立。ゾンビの群れは容赦なく押し寄せてくる。果たして彼らは無事に生き延びることが出来るのか…?

このゾンビ映画の始祖を見て気付かされるのは、感染を恐れて家に閉じこもり、外に出てもいつ感染するか分からない恐怖と疑心暗鬼に囚われる現在のコロナ禍の社会状況にそっくりだと言うこと。
かねてからゾンビ映画はパンデミックのメタファーであると言われてきたが、実際にそうなった世界を目の当たりにすると、この優れた先見性と批評性に感心する。

低予算映画のため、映画はほぼ田舎の一軒家で展開される。
閉じ込められた人物たちが限定された空間で足掻く、ワンシチュエーションスリラーとしても秀逸である。

登場人物は悲しみに暮れるバーバラと、生き延びる努力を惜しまない黒人のベン。
中年のハリーと妻ヘレン、娘カレンの家族。青年トムとその恋人ジュディの7人。
性別、年齢、人種、性格のバラエティに富み、アメリカ社会の縮図となっていることも興味深い。

映画はゾンビとの立ち回りより、彼らが生きるための方針で対立する会話劇が中心。
一方でラジオとテレビから、外部で何が起きているのか徐々に情報が伝えられ、絶望的恐怖を煽る。

この設定は、多民族国家であるアメリカが抱える問題を浮き彫りにする。
製作当時のベトナム戦争や公民権運動が激化する世相を受けて、新旧世代の価値観がぶつかり合った結果、自分を守るために他者を排除する利己主義が蔓延するだろう社会の恐怖を描いている。

本作の中で展開される人間ドラマもまた当時の世相を反映。
主人公が黒人青年ベンであり、立てこもった白人たちを頼もしく指揮していく。
妻子ある中年の白人男が終始ワガママに振る舞い、若い黒人の青年がその男を殴り飛ばし、挙げ句には殺してしまう、白人支配の立場の逆転。

危機的な状況だからこそ、人間の本質がさらけ出されてしまう。
ゾンビよりも人間の心の醜さが怖い。
だからこそ、多くの人に響く。

本作のラストは明確なバッドエンド。
立て籠もった7人の中で一番活躍したベンに、やっと救助の手が差し延べられたと思った矢先、彼は救助隊にゾンビだと誤認され、射殺されてしまう。
しかも、ゾンビたちと一緒に火葬されてしまうという皮肉な結末。
当時としても後味が悪かっただろうが、新しい価値観を象徴する黒人の活躍を無にする結末は、現代なら炎上すること間違い無い。

パンデミックの恐怖と、世代間・人種間の抗争がコロナのパンデミックと黒人差別への怒りが同時に燃え盛っている現代のアメリカに、異様に酷似している。

難点はゾンビに迫力がないことくらい。
モノクロ映像の闇が、それを上手に隠す。
映画の予見性が鋭いというのもあるが、それ以上に現代を生きる我々に進歩がないということが強く感じられる作品だ。
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