爆裂BOX

メシア・オブ・ザ・デッドの爆裂BOXのレビュー・感想・評価

メシア・オブ・ザ・デッド(1973年製作の映画)
4.0
画家の父に会う為、海辺の町を訪れたオーレッティ。しかしアトリエに父の姿はなく、100年前の伝説が記された日記だけが残されていた。オーレッティは古い言伝えを収集している男トムとその仲間と知り合うが…というストーリー。
隠れた名作ゾンビ映画です。製作・監督・脚本を務めたウィラード・ハイクとグロリア・カッツの夫婦コンビは「アメリカン・グラフィティ」や「インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説」の脚本手掛け、「ハワード・ザ・ダック/暗黒魔王の陰謀」の監督も務めています。
オーレッティは手掛かりの父の日記を調べていくも、やがて恐ろしい伝説に辿り着き、トムと恋人?の女性ローラとトニーは町に溢れるゾンビに襲われるという内容です。
父を捜して海辺の町を訪れたヒロインの体験する恐怖を描いたストーリーですが、冒頭で何かから逃げていた男(若き日のウォルター・ヒル監督が演じてます)が助けてくれた少女にいきなり剃刀で喉切り裂かれたり、ガソリンスタンドの店員が車から現れたゾンビにいきなり襲われたりと時折挿入される意味不明な殺人シーンがシュールで不気味な雰囲気を作り上げています。前述のスタンドの店員が給油中のトラックの荷台の毛布とったら山積みの死体が乗ってたり、ネズミを生きたまま頭を齧る男などといった描写を唐突に挿入して何の説明もないのも気味の悪さに拍車かけます。アメリカ映画なんだけど全体に流れる空気感はユーロ・トラッシュ等のヨーロッパの感触受けます。ヒロインの父のアトリエの壁の近代アートのようなモノクロの人々を描いた絵も何か不気味で印象的で、ちょっとした恐怖演出にも使われています。
ヒロインオーレッティを演じたマリアンナ・ヒルの綺麗だけど何処か疲れたような感じも受ける美貌は終盤不安に追い詰められていく姿とあっていたと思います。彼女に協力する言伝えの収集家トムはきざな感じで、泊ってるモーテル追い出されたからってヒロインの家に押し掛けたりと中々に図々しい性格。オーレッティも受け入れちゃってるけど。トムの仲間ローラとトニーもそれぞれ違った感じの美人でした。
ゾンビ映画大辞典でも触れられた、「ゾンビ」よりも早いスーパーマーケットに集まるゾンビや、「デモンズ」よりも早い映画館に集まるゾンビ、窓を割って飛び降りてくるゾンビ等のシーンは必見です。スーパーのシーンの人影を追ってスーパーに辿り着いたローラが店内を歩いて精肉売り場に辿り着くと、青白い顔をした人々が夢中で生肉をほおばっている現場に出くわし、気配に気づいたゾンビ達が一斉にローラの方を見て、無言でダッシュで追い掛けて来て四方から追い詰めてくるシーンは不気味で怖いです。そして映画館の方も、トニーがポップコーン食べながら映画見てるとひとり、また一人と遅れて客が入場してきてふと気づくと席がゾンビで埋め尽くされていて、やはり無言で立ち上がって一斉に迫ってくるシーンもかなり不気味。トムが町中歩いていて、路地を見ると数人の青白い顔した男女が黙って立って此方を見ているシーンも不気味でした。
本作のゾンビは町に伝わる呪いでなるようで、迫りくるゾンビ達に銃撃ってた警官が、相方の方見たら血の涙流してゾンビ化してたりと町にいるだけで侵食されてゾンビになっていきます。ゾンビ化後も知性はあるようで、必要に応じてダッシュしたりします。ゾンビメイクは顔を青白くしたものですが、「恐怖の足跡」の影響窺えますね。食人するようですが、時代もあってか犠牲者に覆いかぶさるだけで直接的なカニバル描写は無いです。倒されたゾンビの死体も食べちゃいます。
また、目から血の涙を流したり、ヒロインが足に針刺しても痛みを感じず、口の中からゴキブリが出てきたりと得体のしれない力によって身体の内側から変えられていく恐怖も味わえます。
全編に漂う陰鬱で不気味なムードが怪奇色を濃厚にしています。ラブクラフトの怪奇小説を思わせる雰囲気がありますね。「インスマスの影」とかの。
冒頭と繋がるラストは全てヒロインの妄想だったとも取れる曖昧さを残します。
とにかく全編不気味で不安なゾンビ映画です。ゾンビ映画ファン、ホラー映画ファンは必見の作品です。