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ヘルクラッシュ!/地獄の霊柩車のSexyBeastTanakaのレビュー・感想・評価

4.0
監督が生前最後に製作した作品に、その監督の死を絡めて語るのはいささか短絡的との誹りを免れないとは思うが、それでもなお「ヘルクラッシュ!/地獄の霊柩車」はルチオ・フルチという伝説の終結としての"遺作"としてあまりに、あまりにも完璧すぎる。

まず主人公が追い立てられるのが霊柩車というのは、笑えるほど(そして笑った後には必ず心が寂寥で満たされる)死を予告している。そしてそんな霊柩車に追われる様は否応なく「激突」を想起させるが、それに比べると明らかに弱々しい。この妙な生気のなさはフルチの老いに重なるが、散漫なまでに緩慢な展開の数々は、彼が死への道筋を迂回し続ける様を見据えさせられるようだ。ひどく人間的な緩慢さの後には、お馴染みのラストへと至る訳であるが、そこに私はフルチの達観を感じる。死を受け入れた彼の姿が見えてくる。最後の光景は荒涼としながらも、静かな諦念に満ちている。

自分でもこの感想はひどくナイーブで感傷的なものだとは分かっているが、そう思いながらもこういった感想を書きたくなる作品が、私にとっての「ヘルクラッシュ!」なのだ。今年のヴェネチア映画祭でお披露目されたフルチの伝記映画"Fulci for Fake"は、そんな彼の人生を汚しはしないかと不安ばかりがこみあげる。
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