このレビューはネタバレを含みます
「右という言葉を説明できるかい?」
10年前の当時、舟を編む、という美しいタイトルに惹かれアニメ版を視聴。
辞書編纂者という題材も面白く、こんな世界があるのだという視点でも楽しめた。
原作は未読なのでそちらのイメージはわからないけれど、アニメ版の馬締はぼんやりした好青年のような雰囲気だったのに対し、見た目も野暮ったく、本当に口下手でコミュ障で取っ付きにくい馬締になっていてこれはこれで良い…!笑
大渡海が完成するまで15年。
挫折の危機、異動、恋愛、結婚、病気、死。
それらは台詞も最小限で、劇的な演出も大きな悲壮感もなく、長い年月の中であれば色々起こるのは当然と言わんばかりに淡々と流れていく。
「感謝という言葉以上の言葉がないか、あの世があるなら向こうで用例採集するつもりです」
という手紙の1文が生涯を辞書に捧げた松本さんらしくてとても良かった。間に合ってほしかったなぁ…。
辞書にかける情熱は静かに描かれていて、悪くいえば地味ともいえる雰囲気で人によっては退屈なのかもしれない。
ただ私にとっては1つ1つの台詞が印象的で、観終えたあとにはホッと優しく温かい余韻が残るような作品だった。
「他の人の気持ちが分からないなんて当たり前じゃないか。 分からないから興味を持つんだろ。分からないから話をするんだろ。」
「誰かとつながりたくて、広大な海を渡ろうとする人たちに捧げる辞書。それが大渡海です。」