MasaichiYaguchi

舟を編むのMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

舟を編む(2013年製作の映画)
3.9
真面目にこつこつと地道に働くより、要領良く立ち回り、上司にゴマをすったり、宴会等で目立った方が受けが良く、早く出世したりする。
そして、時代の変化が激しく、景気の先行きが見えないこの頃では会社も半期とかの短期間での成果を求める。
ただでさえ出版業界は低迷が続いているなか、本作品の主人公・馬締光也が所属している辞書編集部は地味で成果がすぐ出ないので、精神的にも肉体的にもきついと思う。
辞書編纂には膨大な労力と費用、そして年月がかかる。
それでも辞書は言葉という大海を渡る為に必要な「舟」。
「以心伝心」「阿吽の呼吸」「空気を読む」とか言われるが、相手にきちんと気持ちを伝えるには、やはり「言葉」。
「言葉」の使い方を間違えると相手に気持ちが伝わらないだけでなく、誤解されてしまう。
私が学生の頃は、今時の優れた電子辞書は少なかったし、辞書機能搭載の携帯電話やパソコンは一般的ではなかったので殆どの者が辞書を抱えていた。
三浦しをんさんの原作を読んだ時、改めて辞書編纂の大変さや、辞書作りに情熱を傾ける人々の姿に胸を打たれた。
石井裕也監督は原作世界を損ねることなく、辞書作りに携わる人々の姿を笑いとペーソスを交えながら愛おしく描いている。
主人公の馬締光也を松田龍平さんが、同じ三浦しをんさん原作の「まほろ駅前多田便利軒」の行天晴彦とはがらりとイメージを変えて、不器用だけど仕事と家庭に誠実に生きる姿を表現していて共感を覚える。
そして、その主人公を心身ともに支える香具矢を宮崎あおいさんが凛と演じていて魅力的だ。
そして二人を巡る人々をオダギリジョーさん、加藤剛さん、小林薫さん、伊佐山ひろ子さん、池脇千鶴さん等が、夫々の持ち味を発揮して演じて作品を温かく包んでいく。
地道に真面目に生きることの素晴らしさを本作は改めて実感させてくれる。
それにしても、香具矢に面と向かって感謝の言葉が言える主人公に思わず尊敬の念を抱いてしまいました。