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ムーンライズ・キングダムのRenのレビュー・感想・評価

ムーンライズ・キングダム(2012年製作の映画)
3.5
とっっても分かりやすくて、そして面白い。ウェス・アンダーソン作品未見の人にはまずこれをおすすめしたいと思った。ウェスらしさと見やすさのバランスがちょうど良く、短尺で心地よく楽しめる。

「箱庭やジオラマのような美術(自分はずっと『ミッケ!』みたいだと思っている)」「シンメトリーの画面設計」「パン多用のカメラワーク」など、しっかりらしさ全開でとにかく可愛い!個人的に『フレンチ・ディスパッチ ~』まで行ってしまうと、全シーンがカッチリ作られすぎていてハイカロリーで疲れてしまう感覚があったけど、今作はロケ撮影も多く沢山緩さがあったので、終始穏やかに観られた。『グランド・ブダペスト・ホテル』も好きだけど、今作くらいシンプルなストーリーと子ども目線で綴られる物語が、可愛らしい世界観に合っていて好きかもしれない。

恋に落ちた少年少女が駆け落ちしようと島から逃げる、そして大人がそれを追う。
自立したい、自分たちだけの世界に行きたいと外へ飛び出すサム(ジャレッド・ギルマン)とスージー(カーラ・ヘイワード)の背伸び、もっと言えば大人ごっこみたいなものはとても切実ながら微笑ましい。そして大人たちは大人たちで不倫したり衝突したりする。物語が進むにつれて、子ども/大人の段差が薄まりそこにいる全員が「完璧でない一人の人間」として映るようになる。
二人だけで生きることが目標だった彼らが、「そうしなくても誰かと生きていけばいい」と信念を変える。単なる子どものジュブナイルではなく、登場する全員が二人の駆け落ちを機に変わっていく人間ドラマだと思った。でも決して重たくはならず爽やかなところがとても素敵。

劇中劇の通り、今作はおそらくウェス・アンダーソン的『ノアの方舟』。嵐とはずばり、サムとスージーの逃避行という事件そのもの。島を掻き回しめちゃくちゃにしたようでいて、そこにいる人々に確かな変化をもたらした。嵐が過去一番の大豊作をもたらしたように。

その他、
○ ローティーン同士のキス、さらには胸を触るといった演出は、物語上決して不必要ではないとは言え大丈夫か?と感じてしまう。
○ のほほんと可愛らしい語り口なのに、なぜこの監督は犬や猫を酷な目に合わせるのか。『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』『グランド・ブダペスト・ホテル』もそうだった。そこだけ嫌い。
○ おそらくピアス貫通は処女卒業のメタファー。
○ Moonrise Kingdom(月の昇る王国)から漂うどこか幻想的な雰囲気。この夢見心地的場所は、夢のような時間でいて確かに存在していた「子ども(身も心も)時代の象徴」の場所として印象深く記されている。
○ クレジットがおしゃれ。
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