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恐怖ノ黒電話のEikeのレビュー・感想・評価

恐怖ノ黒電話(2011年製作の映画)
3.3
この邦題やジャケット写真からすると電話をネタにした「ホラー映画」だと思い込んで鑑賞しましたが、かなり印象が異なる作品だったのでちょっとビックリ。逆に言えば予想が外されたともいえる訳で面白かった。

DV野郎の夫エドと離婚調停中のマリー(Rachelle Lefevre)は心機一転を図るべく新しいアパートに移り住み、生活の立て直しを図ります。
しかしエドは気弱さの拭えないマリーを見透かすように禁止命令を無視し彼女の新生活にも入り込もうとしてきます。
そんなプレッシャーに押しつぶされそうな日々を過ごすマリーですが、ある夜、彼女の部屋に残されていた古い黒電話が鳴り始めます。
彼女は当然携帯電話を持ってますから相手に覚えが無いのですが、不審に思いながらも電話の向こうにいる人物と会話を始めるのですが、それが奇妙で恐ろしい事態の始まりだった...。

本作、かなり不思議なお話なのですが物語の運びのペースと雰囲気も独特。
ぶっちゃけ、アメリカ映画らしくないなぁと思っていたら珍しや、これイギリスとプエルトリコの合作。
主な演技陣はアメリカ組ですが監督のマシュー・パークヒルはイギリス人。
それと画面の色合いが不思議な感じで独特の空気感が出ているなぁと思ったらロケはプエルトリコで行われたようで、なるほど納得です。

サスペンス要素を強く含んだ奇妙なお話ながら性急にホラーにしなかったのは正解で、結果的にドラマとしての見応えにつながっている気がいたします。
ただし、テンポの速い見どころの多いホラーを期待しすぎるとこのじっくりとした人物描写やスローペースな物語の運びに落胆することになるかも...。
古い黒電話がつながった先にいる人物は妙に不穏な気配をまとっており、マリーとその人物との電話越しの会話は次第に険悪さを増し、その交流はやがてマリーの身辺に直接危機を及ぼすモノになって行く…。

この電話の相手が本作における脅威となる訳なのですがストーカーと化した元暴力亭主の影がマリーの周辺に常にチラついているという設定も不安を増幅させる役割として巧く機能しております。
昨今の恐怖映画としての「脅威」はその殆どが「生身の殺人鬼」或いは「実体を持たぬ悪霊(或いはその呪い)」といった類のモノのバリエーションな訳ですが、本作の場合はそのどれでもない(ラストを除いて)。
この時空を超えたアイデアは中々にユニークであります。
ただ、そのアイデアをきちんと生かした展開・描写が確立できているかどうかは見る人との相性が問われるかもしれませんね。
ラストの展開もちょっと意外な感触のものになっていて好き嫌いは別れるかもしれませんが、ありきたりな印象では終わっていない辺りは意欲作として評価したくなりました。

ホラー映画的なテイストは余り強くないものの、低く流れる不気味なサウンドトラック、電話の会話だけでマリーと相手との間に高まるテンションを次第に上げて行く演出等はきちんと効果を上げております。
特にカギとなる電話での会話シーンは全て異なるカメラアングルにしたり、会話自体もリハ無しで一発録音したり、劇中で実際に電話を使って会話した分をアフレコ抜きで使用したりと様々な工夫も。
こうしたアイデアもあって低予算の作品ではありますが意外と見応えがあるものになっていると思います。
ちなみに本作、最近韓国映画でリメイクされたようですね。
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