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カルトのCHEBUNBUNのレビュー・感想・評価

カルト(2012年製作の映画)
3.5
【怪奇現象はカメラを持っていない時から起きている】
白石晃士監督はPOV映画にグラデーションを与えた監督である。『クローバーフィールド/HAKAISHA』や『REC/レック』などゼロ年代後半に、手持ちカメラを使った映画が流行った。しかし、その多くがカメラを持った者がひたすら怪奇現象にてんやわんやする内容であった。『オカルトの森へようこそ THE MOVIE』において彼はヒッチコック映画さながら、怪奇現象に巻き込まれてんやわんやする者と順応していく者、怪奇現象側の存在を並べて行くことで物語を紡いでいった。その業は『カルト』の時点から観測できる。『カルト』の場合、カメラをどこに置くかによってグラデーションを表現している。

決定的瞬間を撮ろうと、屋敷に入り群れを成すことで身を守る。しかし、事態は彼女ら/彼らがカメラを、眼差しを持っていないところから忍び寄る。外に配置したカメラは粉砕されていくテニスボールを撮る。2階に犬が駆け上がった先でも次々と異常現象が起きて、やがて撮影者の前に現れる。しかし、手ぶれが激しかったり、暗闇故に実体が掴めなかったりする。ここがミソである。

人類はカメラを持った時から、眼差しが補足できる範囲を超えた存在を捉えることに欲望を募らせてきた。例えば、人身事故が起きたときに助けたり逃げたりする前にカメラを持って決定的瞬間の残り香を捉えようとする。カメラを持っている時、自分は死なないだろうという盲信。自分の命よりも優先して決定的瞬間を捉えようとする心理が育成されてしまった。白石晃士監督は、そんなカメラの裏を安全圏だと思っている人々を異界へ引き摺り降ろしていく監督だといえる。

実際に、ヒロインたちはテレビモニタに映し出されている異界の中へと入っていく物語となっている。カメラを持っていても、群れを成していても次々と制御不能な事象が起きていく。呪術師が異界まで導くが、彼らは最強のキャラクターではない。身の危険が50cmの距離まで迫り来るのだ。

気がついた時にはもう後戻りできない世界である。まさしくこれはヒッチコック的世界である。白石晃士監督をヒッチコック映画の文脈から語ることによって、一見低予算で映画らしいルックをしていない作品群から面白い視点を見出すことができるのではないだろうか?

白石晃士監督作品、スルーして来ていましたが、今こそ追っていきたい監督であります。
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