くりふ

ローラのくりふのレビュー・感想・評価

ローラ(1981年製作の映画)
4.0
【歌う娼婦とけがれた円満】

特集上映「ファスビンダーと美しきヒロインたち」でみました。『マリア・ブラウンの結婚』に続く、「西ドイツ三部作」の二本目。

『嘆きの天使』を元にしていて、舞台を50年代の経済復興期に移し、奔放な歌姫と堅物役人との愛憎物語を、80年代の視点から綴ります。

まず、アイドル映画みたいな感覚で楽しんでしまいました。ディートリッヒが演じた女と同じ名の、歌姫ローラを演じる、バルバラ・スコヴァさんにいゃあ、萌えてしまって(笑)。

ちょっと尖った顔立ちだけど可愛らしく、何より腰のくびれが見事!その舞台にも惚れ惚れしますが、勿論キレイなだけでは終わりません。

歌いながらオペラグローブを脱ぐ妖艶ステージ、というとまず、『ギルダ』のリタ・ヘイワースさんを思い出しますが、本作での、目前で何かを失うローラの逆ギレステージを見たらその記憶、褪せた。

おっぱいポロリも構わず、オペラグローブを靴下のように振り回し、皮膚裂くように衣装を脱ぎ捨て、黒コルセットだけで歌い狂う素の女。それでも美しいから困ったもの。ギルダじゃここまでできません。ここはシーンとしても素晴らしく、いちばん「泣ける」局面でした。

そんなローラが働く、娼館を兼ねたクラブから物語が始まりますが、店内の照明がどピンクですごい!でも風俗店のギラギラというより、どこか褪せて涼しい色合い。

で、本作が特異なのは、店を出ても、この桃色照明が全編を覆っていること。さすがに外では色、薄いけど、店に溜まりすぎた欲望が、こんどは街中に染み出していくようです。物語の舞台がどんな場所なのか、直感的にバレてしまうのでした(笑)。

街で店が裏の顔なら、表の顔は建築局。希望の礎をつくる筈の場所。そこに蠢く登場人物も皆、表と裏の顔を持ち、癒着と談合で甘い汁。懐が膨れれば夜、娼館の女に欲望を吐き出す。復興が生んだ魑魅魍魎。そこに裏の顔を持たない、A・M=スタール演じる新局長が就任し…。

桃色の街で始まる、ローラの表皮に惚れた男と、皮被り女の欺瞞愛。危ういけれど微笑ましい…始めのうちは。初デートで、それか!

皮被りローラの白いニュー・ルックが激カワで、またまた萌え(笑)。黒い娼婦ルックと表裏の落差激し過ぎ。でも桃色照明が間を埋める。

本作は単体でもよいですが、『嘆きの天使』と比べると面白いですね。あちらは直球で、個人の、心の折り合いの問題に絞られていましたが、こちらはコミュニティの中、力関係に翻弄される人々が描かれていて、そこでどう、自分の居場所を見つけるかとあがくお話になっています。

故国を忘れたくて異国へ来たのに忘れられない、という冒頭の歌が、あとでだんだん、効いてくるのに気づきました。

そんな中では女の方が面白くて。男はあまり居場所、変わらないから。

こちらのローラにも、したたか悪女な素養はあるのですが、ディートリッヒより等身大で、弱さが漏れるところが魅力です。住家にも見える娼館の部屋が「人形の家」でもあるのは含みだろうか?

ずっと裏舞台で囲われ生きてきた彼女は、表舞台に出たいから、新局長の愛を利用するのですが、そこからの揺らぎがちょっと切ない。

また、経済成長に溺れる中では、幸せや、人間そのものまで対象に、買う・買わないという話にすり替わってしまう所が、ちょっと怖い。そこでは、初めて家庭に入って来るTVの異物感が可愛らしく見える。

新局長が無邪気に購入するそれも、比較したくなるのですが、ファスビンダーは、ダグラス・サークからの影響を公言してますから、やはり50年代表面下のカオスを描く『天が許し給うすべて』にて凶器として登場するTVへの目配せと、対比があるように思いました。

そして騒動は一見、丸く収まるけれど、裏の顔はやっぱり続いてゆく。新たな広大建築の礎は、欲望セメントで埋められることが覗きます。

誕生する花嫁の、白いドレスの下もやっぱり…で、なのにめでたし、という気持ちにさせる、けがれた幸福感満載の映画なのでした。

<2013.3.26記>
くりふ

くりふ