四畳半ガールのび太

風立ちぬの四畳半ガールのび太のレビュー・感想・評価

風立ちぬ(2013年製作の映画)
4.0
アニメーション的快楽で画を持たせるという意味において、この作品は一つの境地に達していたように感じた。人生のどこかのタイミングで零戦を生み出すということ以外、長期的な指針が菜穂子との関係を除くと与えられない進行であったとしても、観ていて一切退屈しない。
記憶のあるうちで場面場面を断片的に見たような記憶はあるが、腰を据えてしっかり通しで観たのは初めてになると思う。思ったよりも早いテンポで展開が進むことにかなり驚いた。テンポの速さはここ10年で急速に早まったようなイメージを持っていたが、2013年の時点でこんなに間延びせずポンポン進めていたのか。そしてもっとすごいなと思ったのが、しっかり風景だったり表情だったりを描写してゆったりとした空気感すら感じさせていることで、練り上げられている密度ということになるんだろう。
個人的にハウルの不思議さは合わなかったし、君たちはどう生きるかはあの分からなさだし、ポニョはもっとストーリーメインだったと考えると、物語としての面白さ・クリエイターとして表現したそうなこと(メッセージ性)・流れる映像の素敵さがこれほどの高次元で結合しているものはないのではないか。宮崎駿最後の作品はこれだと信じたい。

〜メッセージ性についての解釈〜
生きること=つくること、であり人生において他の何かを犠牲にしているように見えることも時としてある。しかし、つくらない人生などは生きているとは言えないのかもしれない。だから最後の「生きて」とはこれからもつくり続けて、という意図なのだ。とはいえ、クリエイターではない観客側としては戦争を乗り越えた人間による人間讃歌として享受することもできる。

残り少ない命の菜穂子との時間の使い方がとても印象的だった。例え病気が快方に向かわないとしても自分が仕事を手放すことはありえない。とはいえ離れて暮らすこともできない、意味がない。ならば残された時間を共に慈しもうという姿勢。何かに情熱を捧げたい人にとってこんな"できた"パートナーはいないだろう。そこに宮崎駿達の理想のパートナー幻想の投影を感じる。犠牲にしてでも傑作をつくり続けるという部分で、庵野秀明を声優に抜擢しているのはすごい英断だ。特に序盤は感情のなさそうな声が印象的だったけれど、不快な目立ちではなく、徐々に作品に馴染んでいった。終盤の演技を庵野秀明がしていることはすごいことだ。
こういう夫婦関係には今の時代だと疑問/不満を持つ人も少ないのかもしれない。けれど、自分はこうした、男は仕事をして、体の弱い女はそれを支えて、みたいな像を美しく思い続けてしまうんだろうという気がする。

巨匠による傑作だった。

最後に気になった台詞をいくつか引用。
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飛行機は美しい夢だ。
設計家は夢に形を与えるのだ。

設計で大切なのはセンスだ。
センスは時代を先駆ける。
技術はその後についてくるんだ。

君がピラミッドのある世界とピラミッドのない世界とどっちが好きかね。
空を飛びたいという人類の夢は呪われた夢でもある。
飛行機は破壊と殺戮の道具になる宿命を背負っているのだ。
それでも私はピラミッドのある世界を選んだ。

創造的人生の持ち時間は10年だ。
芸術家も設計家も同じだ。
君の10年を力を尽くして生きなさい。

美しいところだけ好きな人に見てもらったのね。

君の10年はどうだったかね。
力を尽くしたかね。
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