moviefrog

かぐや姫の物語のmoviefrogのレビュー・感想・評価

かぐや姫の物語(2013年製作の映画)
3.6
「かぐや姫は、罪を作り給へりければ、かくいやしきおのれがもとに、しばしおはしつるなり」という一節があるように、月にいたときに何かをやらかした宇宙人が、罰として貧しい翁の元で赤ん坊時代から人生をやり直させられ、謹慎が明けるや地球から強制退去という、平安時代に書かれたSF小説「竹取物語」が原作のアニメーション作品です。

この映画のかぐや姫は、月にいては地球での生活に憧れ、地球においては都会暮らしは嫌で田舎暮らしがしたい、とグズグズ嘆き暮らす、終始一貫して無いものねだりばかりしている人物として描かれる。都会の豪邸内に作った中途半端な庭で中途半端な田舎生活をしつつ「こんなの偽物よ!」と荒れ狂う。豪華な衣装に大喜びする俗っぽい面もある。

眉抜きや鉄漿が嫌だといいつつ、結局屈して妥協。
兄のように慕った捨丸の窮地を救わず見捨てる。
結婚を回避しようと求婚者に難題を吹っ掛けたせいで死者が出る。

とまあ散々な行状です。

翁は翁なりに姫を幸福にしようと当時の常識の中で最大限の幸福を追求する。
媼は翁から距離をとりつつ、田舎暮らしの疑似生活を維持しようと努める。

そういう両親のもと、肝心の姫は、高い運動能力を持つ自然児なのに自分の意志で行動しない。意に染まないことに直面すると泣いて暴れるが、何も解決せずうやむやになる。フェミニズム的なことを頻繁に言いはするけれど行動は伴わない。で、帝にセクハラをされ「助けて!」と思ってしまったことで、自分は地球人ではないことを急に思い出し、地球にいられなくなり、記憶を奪われて月に帰っていく。

結局のところ、せっかくあこがれの地球にやって来ても、文句や不満ばかりで、姫はさほど幸福にはならない。本当の私を見てー、みたいなことは言うけれど、実はこの人は自分から人を愛そうとはしない。常に受動的で、強烈な不満に囚われている。

結局のところ、この主人公はどこにいようが、自分で自分の人生を送ることはできない人間なのです。

アニメーションとしての絵柄や動きのかわいらしさ、美しさに反して、実はすごく後味の悪い物語で、グロテスクな映画とさえ思う。姫がもう少し賢く、快活で、人生を自分の手で切り開こうとしさえすれば、全く別の結末が迎えられたかもしれないのに、姫は結局与えられたチャンスを活かせませんでした、という辛い作品で、「火垂るの墓」同様のトラウマ映画でありました。
moviefrog

moviefrog