Kuuta

そして父になるのKuutaのレビュー・感想・評価

そして父になる(2013年製作の映画)
3.9
台詞に頼らないキャラ描写。演出も過度にエモーショナルにしない。取り違えが主題なわりに軽めのバランスで、社会への問題提起というより、父親とは何かについてシンプルに描いている印象(あえて言えば、取り違えの話である必然はあまりなかった気はする)。
筋書きは分かりやすいが、美しい映像や自然な会話の中に多くの情報が詰め込まれている。

繰り返される螺旋階段(血縁への執着)。岩を挟んで二手に分かれた川がやがて元に戻る。その構図が慶多と向き合う歩道のシーンにもリフレインしている。

慶多の背中を追い続けた福山が、ようやく追いつき、横に並んで話そうとする。画面奥には川が流れ、父子の間を人工林(血の繋がらない関係の時間経過)が遮る。どこにでもありそうな町の風景を見事に使い切ったシーンだと思う。

ど頭の面接や校内の会話だけで慶多と両親、夫婦の関係が手際良く示される。超ゆっくりと動くカメラワーク。修理することで関係を取り持つ。Wiiと古いゲーム機など、細かい対比を上げるとキリがない。血にこだわり、音楽への教養もある父を恨みながらも、自分も同じような父になっていた。子供を見守っていたつもりが、「見られていた」という逆転。慶多はずっと「息子」でいようとしていた。その時間の重みに気付かされる。

福山雅治の軽い感じが父親像にドンピシャで、脚本を当て書きしただけのことはある。尾野真千子が静かに孤独を深める様子、これは都会生活の中での照明演出が光っていた。79点。
Kuuta

Kuuta