カラフルな世界はもっての他、モノクロのように白黒がはっきり分かれた美しささえ感じられない冷え冷えとした色合いに思わず息を呑む。その徹底した無機質なカラーは作風にも受け継がれてゆく。
言葉数少なめ、というか多くを語ろうとしないスタイルには賛否が分かれるところだろうが、これは社畜、家畜という世界観を露骨に浮き上がらせるための手段にすぎないのではないか。異常だが近い将来こうなってしまうかもしれない、いやすぐ近くまで来ているかもしれないと心のどこかで危惧してしまう管理社会に我々は凍りつくしか術がないのだ。
精神的暴力の名を欲しいままにした本作だが、渇ききった暴力シーンを美しいと感じてしまうの何故か。そこには家畜としてではなく、人間としてのもがきがあるからなのか、単に感覚が麻痺してしまっただけなのか。本作には様々なメッセージやテーマを多分に含んでいるが、その中のひとつに麻痺という現象そのものがあると思う。
最初こそ意味がわからずとっつきにくさを感じていたのにいつの間にか足元まで引きずり込まれている。なんとも不思議な作品だ。あわよくば駐車場係の笑い続けるおじさんのエピソードがもっと観たかったかな。
☆主人公夫妻、なかなかの猛者というか、久しぶりに映画のなかでこんなに強烈な夫婦を観た気がする。ビンタのくだりは笑っちゃった。何年越しの復讐やねんっていう。