垂直落下式サミング

樹海のふたりの垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

樹海のふたり(2013年製作の映画)
4.5
主人公のフリーランスのテレビドキュメンタリーのディレクターふたりを芸人のインパルスが演じる実録テレビ番組製作を描いた作品。
テレビ業界から戦力外通告を言い渡されてしまった彼等は、起死回生の一手として、富士の樹海に来る自殺志願者を取材したり、樹海を探索し自殺者の死体を見つけて供養するという内容のドキュメンタリー番組を作ろうとするのだが、ふたりで樹海を彷徨ううちに彼等自身の生活にもそれぞれ問題が浮かび上がってくる。
主演のインパルス堤下と板倉はぎこちない演技ではあるものの、その素朴さや誠実さがこの映画を引き立てていたと思う。ふたりのナレーションが樹海の成り立ちやキャラクターの心情を語る場面などは特にいい。所々に挿入される笑いにもどこか可愛いげがあり、ふたりの風貌も相まってこの救いのない現実を題材にした作品の雰囲気を和ませていた。
主人公のふたりは自殺志願者をみつけて、彼等を救おうとするのだが、その番組が評判を呼ぶにつれ「彼等を本当に止めてよかったのだろうか?」「自分達のやっていることは人の意思を踏みにじる無責任な行為なのではないか?」と思い悩む。
板倉には自閉症の息子がいるが家のことは奥さんに任せっきり。堤下は父親の介護に仕事に色恋に手が回らなくなってしまう。彼等の生活の閉塞感は、自殺志願者たちの話とあまり変わらないのだ。何でもかんでも不等だとか辛いだとかネガティブにとらえるからダメなんだと、人の気持ちの持ちようひとつで解決できる問題だとも言えるが、こうも良いことがないと、こんな世界に生きているくらいならいっそのこと彼等も死んだ方が楽なんじゃないかと、そんな気さえしてきてしまう。
「生きることは真実だよ」20年近く活動してるけどなかなか売れないロックバンドの曲の歌詞のような台詞が、切実でやるせない。下手に演技ができる人が言ってしまうと説教臭くなる教訓めいた台詞が多いが、それを板倉が言うと、ちょっとキザっぽい男が照れながら、でも本心で語っているようにみえる。
生きることに理由がないように、死ぬことにだって意味はないのかもしれない。そんな問いは人が生きているかぎり付いて回るんだろう。自分に役割なんてないのかもしれない。生きていたって無駄なのかもしれない。でも、それは生きてみなきゃわからない。
蜘蛛の巣なんていう些細なものに心を動かされることがあるように、誰にとって何が生き甲斐となるかとか、何がどんな価値を持つのかなんてわからない。語られる彼等のエピソードをみていると暖かい気持ちがあふれてきて、あなただってもうちょっと生きていればいいことがあるんだよと、優しく囁きかけてくれるような映画だった。
“隠れた名作”とはこういう作品のことをいうのだと思う。