ナガノヤスユ記

さよなら渓谷のナガノヤスユ記のレビュー・感想・評価

さよなら渓谷(2013年製作の映画)
4.5
別に共感は得られないだろうけど、すげえわかる。
空腹で死にそうになったら目の前の食べ物が好きだろうが嫌いだろうが食う。そういう生物的な切実さがセックスにも人間関係にも時としてついて回るって感覚。別に旨いもん食べたいとかそういうんじゃない。ギリギリの欠乏を補いながら生きてるんだ、死ねないから。川の水が高いところから低いところへ流れていくとか、そういう最低限の、だけど根源的な世界観ですよこれは。
そういうままある切実さの表出が、大概周りの目には異質に映るし、時に畏怖されたり嘲笑や反発を招いたりする。
2人がどこへいくともなく、何を交わすでもなく、黙々と歩きながら次第に、「この世界にはもう互いしかいない」みたいな感覚に陥っていくロードームービー的シークエンスには滅法ドキドキした。
大森南朋演じる記者の夫婦を対置させておきながら、あけすけな二項対立みたいのに落とし込むこともなく、愛でもなければ贖罪にもなりえない、限りなくグレーなゾーンに2人を置き続けたのがよかった。

どうせ今の日本の観客の共感なんて得られないんだから、鈴木杏にあんなに丁寧にガイドさせる必要はなかったかなとは思う。それ以外でもちょっと喋りすぎるきらいはあった。演技の固さも確かにあるけど、終始すごく映画的なショットが続くので割とどうでもよかった。
好きだこれは。