垂直落下式サミング

セデック・バレ 第一部 太陽旗の垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

3.7
日本統治下の台湾植民地時代に起きた原住民族セデック族の大反乱「霧社事件」を映画化。全部で4時間半の長編であり、あまりにも理不尽な弾圧や略奪がまかり通るような酷い圧政という程ではないが、そこに古来からある何かが今まさに踏みにじられていて、表向きはお互い穏和にみえるが歓迎されてはいない危うい空気が漂う。恥ずかしながら、この映画ではじめてこの歴史を知った。
前半部は警察官の軽率な態度によって誇りを傷付けられたセデック族の若者が、皆と蜂起することを決意する描写などが丁寧過ぎるほど丁寧に描かれている。まぁ、ちょっと長いかもしれないが日本憎しと思わせるには十分な時間だ。
題材からして抗日映画なのだろうからある程度身構えていたが、暴動を鎮圧しようと出動する軍人や警察官以外の一般人、故郷と日本の間に立つ人々の描かれ方をみると、なるほど一方的な価値観を主張する作品でないことはわかる。
台湾原住民族のセデック族は、自身の狩場に余所者が踏み入れれば女子供であっても容赦なく首を斬り殺してしまう野蛮人だ。狩った敵の首の数を勇猛の証とする彼等の精神は日本古来の武士道に通じるものがあるのかもしれない。誇り、掟、男権、覚悟など、彼等のその価値観はまったく少しも理解できないほど異質なものではない。
無数の敵に取り囲まれた男が生き恥を晒さぬよう自刃する姿や、戦士たちの妻や子等までが足手まといにならぬようにと集団自決する様子はかなりショッキングだが、これがセデック族が生活のなかで築いてきた価値観なのだ。日本にだってほんの200年前くらいには刑罰というかたちで首斬りの習慣はあったし、三島由紀夫なんて武士でもないのに割腹して死んだのだから、ちょっと前に自分たちが止めたからといってシティ派を気取り、田舎者を野蛮だとするのは文明社会の傲慢なのだろう。
いっさいの手抜きがない残虐なアクションが炸裂する後半が本作の見所だが、森林を駆けるセデック族の戦士たちはあまりにも強く、劇中でほぼ負けないのに、最後にはなぜか追い詰められてしまう。そこに嘘臭さを感じてしまった。
大軍をものともしない戦士たちのタフネスを見せたあとに、とはいえ近代兵器を有する軍隊の力に打ち負かされてしまうのなら、疲弊し一人また一人と無慈悲に散って行く仲間の死に様こそが見せ場になるはずだろう。本作にはそれがない。ものすごく強いのに然したる描写もなく雰囲気で負けてしまうので、物語の都合で死んでいる感じがして可哀想だ。あんなに強いなら勝ってほしい。